写真は撮ったら終わりじゃない

投稿日:2015年11月14日 更新日:

フォトレタッチ

ブログ凍結して2ヶ月半ぶりの更新である。もう誰も見てないかもしれないが、更新しなくても不思議とアクセスは減らない。それだけ検索エンジン経由の流入が多いということだろう。相変わらずカメラにはまったく興味がないが、写真も完全に興味がなくなってしまった。例年、今頃の季節になると多少なりとも写欲が湧いてくるものだが、もう紅葉を見ても撮りたいとも思わない。要するに飽きちゃったんだよ。特にネイチャーなんて毎年毎年撮っても結局同じでしょ? わざわざ撮らなくても、もうすでに充分なストックがあるんだ。旅行もまったく行く気がしなくなった。もう行き尽くしちゃってるから今さら撮るものがないんだ。写真目的の旅行なんてもう行くことはないだろう。

写真というものは常に新しい作品を生産し続けることが目的化する傾向がある。それは絵画などの他の芸術と違って制作に時間も手間もかからないという特性に起因するだろう。写真を撮ることはシャッターを押すだけだから「楽」であるし、新しい場所へ行ったり探究心を刺激されたりして「楽しい」ことでもある。また新しいカメラやレンズを買えば物欲が満たされる。つまり写真を撮ることは本質的に快楽なのである。これは写真だけが持つ特異性だろう。ゆえに人は写真を撮るという快楽に溺れがちである。多くの写真家は新しい写真を撮ったり、カメラを買うことには熱心であるが、「撮った後」については無頓着な人が多い。たとえば毎週のようにどこかへ出かけて写真を撮り溜めているが、ブログの更新が全然追いつかないなんて人はよくいるでしょ? 写真を撮ることは「楽」であるが、ブログの更新は「苦」だからだ。人間は楽な方ばかりを選びたがる性質がある。写真を撮るだけ撮ってハードディスクに溜め込むだけっていう人、多いでしょ?(人のことは言えないが)。そういう写真って、おそらくもう二度と顧みられることはないだろう。撮ることの快楽だけが目的になってしまい、撮った後のことなんてどうでもいいんだ。デジタル時代になって、一層そういう傾向が強まっている気がする。

さて、この前振りは新しく買ったものと関係がある。つまり、新しい写真を撮ることにはもう飽きてしまったが、すでにある写真を活用していく方向へ頭を切り替えるということである。ぶっちゃけた話、自分も上のような「撮りっぱなし人間」だったんだ。フィルム時代はポジそのものが最終的な完成品だったからそれでも良かったんだが、デジタル時代になってからはハードディスクに溜め込むだけでプリントなんてまったくしなくなってしまった。当然、古い写真なんてもう開くこともなく、ハードディスクの肥やしにしかなっていない。結局、撮ることだけが目的化してしまって、それで終わりだったんだよね。でも物理的な実体なしにモニター上で等倍表示してニヤニヤするだけで「写真」なんて言えるんだろうか?

そこで新しいプリンタを購入した。というのは後から付けた建前で、本当は必要に迫られて購入したんだ。要するに壊れちゃったんだな。今までEPSONのPM-4000PXを13年間も使い続けてきたのだが、数年前からスジが入ったりして調子が悪くなってきた。それでも文書くらいしか印刷しないから騙し騙し使い続けてきたのだが、とうとう新品のインクを入れても認識しなくなってしまい万事休す。毎月の請求書作成(笑)にどうしても必要なので、急遽先月末に購入したところである。

PM-4000PXというのは2002年に発売されたEPSON初の顔料インクプリンタであり、A3ノビ対応の写真画質で一世を風靡したモデルである。長らくプロセレクションシリーズとして君臨し、写真家がこぞって購入したものだ。確かに当時としてはもうラボに出す必要はないと思えるほどの高画質であった。3代続けてEPSONを使ってきたので思い入れがあり、後継としては同じプロセレクションシリーズのSC-PX7V IIがふさわしいと思われた。しかし、これは馬鹿でかい上に重量が12kg以上もあることで萎えてしまった。値段も6万円ほどするが、それは大した問題じゃないんだ。プリンタなんて一度買ったら10年は使うから十分元は取れる。PM-4000PXでもでかさと重さに辟易していたのだが、それ以上となるともう御免だ。というわけでこの線は却下。

次に気になったのは同じEPSONのEP-10VAというA3対応複合機である。これは今年10月22日に発売されたばかりの新製品で、一応プロセレクションシリーズにラインナップされている。グレーとレッドを加えた新6色インク採用ということで、写真画質の向上を謳っている。これにはかなり心を動かされて購入を決定しかけていたのだが、まだ発売もされていない新製品でまったく情報がないところが気になった。プリンタなんて既に成熟した商品だから、新しいからと言って必ずしも良いとは限らない。染料インクでグレーインクを採用したのはEPSON初の試みということで、実績のない初物に手を出すのは慎重にならざるを得ない。もとより新製品だから値段が高いし、インクが一本1,500円もするのはあり得ない。ランニングコストを考えるとこれも却下だ。

最近はA4複合機が主流になっているため、A3対応にこだわるとEPSONではめぼしいモデルがなくなった。A3の写真プリントなんて用紙代は高いし、インク代も馬鹿にならないのでめったにすることはないだろうが、地図などはA4だとかなり縮小しなければならず、やはりA3ができた方が何かと使いでがある。大は小を兼ねるのだ。写真もA3対応なら写真家にとって馴染みの深い四切が可能になることもポイントである。今までA3ノビ対応を使っていたので今さらA4に戻ることはできず、A3対応は外せない条件となっていたのだ。

そこで初めてCanonに目を向けることになった。これまでCanonは最も嫌いなメーカーだから完全にノーマークだったが、背に腹は変えられない。価格.comのクチコミによると、CanonはEPSONに比べてインク詰まりが少ないらしいということが気になった。これまでずっとEPSONを使ってきたが、インク詰まりの酷さには閉口していた。プリンタなんて月に一度くらいしか使わなかったが、使うたびにインクが詰まっていて、クリーニングで大量にインクを消費することが腹立たしい。印刷した枚数に比べてインク交換の回数が多すぎる気がする。おそらく8割くらいをクリーニングで消費してるんじゃないか? そこでこの際、EPSONと決別することにした。CanonでもA3対応になると選択肢が少ないが、その中でPIXUS iP8730というモデルが目に留まった。

このモデルは特に写真家向けというわけではなくて一般向けであり、基本的に染料6色インクなんだが、注目した理由は2つある。1つは顔料ブラックインクを採用していることである。これまでPM-4000PXを使ってきて、顔料インクの良さは十分理解していた。何より褪色性が素晴らしく、10年前にプリントした写真もまったく色褪せていない。染料だと下手な互換インクを使うとすぐ色褪せてしまう。そして普通紙に印刷したときの黒の締まりが格段に良いのだ。染料だとどうしても滲んでしまうので、黒が薄くなりがちである。何と言ってもよく使うのは写真よりも文書印刷であり、自分の場合、一番大量に印刷するのは楽譜だから、黒がはっきり出てもらわないと困る。黒だけでも顔料インクを採用していることは大きな利点がある。またもう一つの理由はグレーインクを採用していることで、これはモノクロ写真を色被りなくプリントするために絶対必要である。6色インクだと基本のCMYKに加えてライトシアン・ライトマゼンタを搭載したものが多いのだが、それだとグレーはCMYの混色で表現することになり、どうしても中間調の部分で微妙な色被りが出てしまう。グレーインクがあると初めからニュートラルグレーを1色で出せるので有利であり、インクの消費量も少なくなる。その代わりライトシアン・ライトマゼンタがなくなったわけだが、インク粒を最小の1pLまで極小化したことにより、基本のCMYだけで充分な階調を出せるようになったとメーカーでは説明している。基本的に色の三原色はCMYだけで十分なんだから、ライトシアン・ライトマゼンタなんてものがどのくらい役に立っているのかは不明であり、余計なものはない方が良いと言えるだろう。インク色数は少ないほどランニングコストが安くなるからだ。

価格.comやAmazonの評価も概ね良好だったので、当初は予想もしなかったCanonのiP8730をポチった。値段も24,000円前後とお手頃どころか、安すぎる気がする。プリンタは完全に業務用だから経費扱い、本当はもっと高い方が良かった(笑)。届いてみて第一印象は「意外と小さく軽い」ということである。横幅はPM-4000PXより数センチ狭くなっているし、重量は8.5kgと大幅な軽量化だ。A3ノビ対応としては十分軽量でコンパクトといえるだろう。

PM-4000PXを買った頃は写真もプリントしていたのだが、初期の顔料プリンタだけあって印刷速度が遅く、A4を1枚プリントするのに10分くらいかかったし、色合わせもなかなかうまく行かず、だんだんめんどくさくなってプリントしなくなってしまった。最近は写真店の端末でプリントした方が当然きれいだし、値段もそんなに高くないので、ますますプリントする機会は少なくなった。しかしせっかくプリンタを買ったら使わないと損である。今でもプリントは専門店に依頼した方が早いし品質も高いということで、インクジェットプリンタによるプリントには否定的な意見もあるだろうが、デジタル時代になって自分で管理できる領域が広がったのだから、最終的なプリントまで自分の手で行わないと本当の意味でデジタルの恩恵は享受できないと思うのである。最近のインクジェットプリンタは非常に高画質であるし、写真展で使われることも多くなってきている。コスト的にもL判程度なら店プリントとさほど違わないだろうが、A4くらいになると圧倒的に安価である。店に頼むのが躊躇されるようなA4プリントを気軽にできるメリットはやはり大きいと思う。

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というわけで、久しぶりに写真をA4にプリントしてみた。昔買った写真用紙が大量に残っているので、当分これだけで遊べそうだ。染料インクだから光沢紙との相性が良い。A4といえども家で見るには十分な大きさである。このくらい大きくしてみると、やはり写真はプリントしてナンボだよなと思う。色合わせは多少調整が必要であったが、ほぼモニターで見た通りの色に仕上がる。便利になったもんだ。これなら店プリントと比べてもまったく遜色はないと思う。積極的にプリントすべきである。そしてA4程度の大きさであれば、K-30であろうとE-620であろうと、もっと古いE-520であろうとまったく区別は付かない。ますますカメラなんてどうでも良くなった。ノイズなんてプリントしてしまえばまったく気にならないよ。等倍で表示してノイズがどうたらこうたら言ってるのはアホみたいに・・(笑) ノイズはプリントしてから言え!(爆)

写真プリントはプロ向けの顔料プリンタでないとダメみたいな風潮があるが、そんなことはないと思う。iP8730でも十分すぎるくらい美しい写真印刷が可能である。褪色性は別として、画質はちょっと見たくらいでは区別が付かないと思う。顔料インクはどうしても段差ができるので光沢紙とは相性が良くないが、染料ならではの滑らかな光沢性という利点もある。加えて6色インクであることからランニングコストも比較的安く、気軽に大判プリントを楽しめるメリットは大きい。

写真をプリントすることによって初めて過去の写真を見返すことになり、それだけでも意味がある。写真は撮ることがすべて、後はほったらかしという人が多いけれど、モノクロ時代は撮影とその後のプロセスは半々くらいのウェイトを占めていたはず。それはデジタル時代の今も変わらないはずなんだ。新しい写真を撮ることにエネルギーとコストを費やすのではなく、すでにある写真を見直し、それを活用していくことにもっと情熱を傾けるべきである。それはプリントのみならず、RAW現像やフィルムスキャンも含めて撮影後のプロセスすべてに関わってくる。新しいカメラにまったく興味がなくなった今、それがこれからのテーマになるだろう。

そういえば、このブログのテーマは「蔵出し写真の大売り出し」だったんだ(笑)。いつからここは物欲ブログになったんだよ?(爆)

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