巷では糞レンズとの評価が高いDAL 18-55mmF3.5-5.6ALであるが、本当にクソなのか使ってみないとわからない。今まで3週間ほど使ってきた感触からは、標準域~望遠域は満足な描写をするが、広角端にはややクセがあるという印象を持っている。そこをもう少し掘り下げて検証してみたい。
まずその前に単品売りのDAとキットレンズのDALの違いについて。どちらも光学系はまったく同じものだが、DAに比べて簡易防滴構造、クイックシフトフォーカス、距離目盛りが省略され、マウントはプラスチックになっている。しかもフードは付属せず、リアキャップもハメコミ式の簡易型になっている。ペンタックスのキットレンズは単品売りとの差別化が著しい。まあボディー単体とさほど価格が違わないのだから、そのくらい差別化されないと単品売りの意味がなくなるのだが、苦言を呈したいのはリアキャップ。これは片手で付け外しできないから困る。結局、別売の純正品を買わされた。こんなの原価はほとんど変わらないものだから、そのくらいケチらずに付けとけ!と言いたい。キットレンズはボディーに付けっぱなしだから要らないのはわかるが、ダブルズームキットだと必ず1本遊んでいる。2個とはいわないからせめて1個はまともなのを付けてもらわないと困る。
物理的なスペックではまず非常に軽いことに驚いた。DAの方はカタログ公称値で235gとなっているが、DALを実測してみるとわずか200gしかなかった。たぶんプラスチックマウントが大きく効いているのだろう。これはズイコーデジタルの14-42mmにも匹敵する軽さだ。どうりで軽いと思ったわけだ。見た目はチープだけど軽いから許す。(笑)
ペンタックスのレンズ全般に言えることだが、前玉が回転しないのは気に入っている点。PLフィルターは使わないけれども、自分は前玉が回るレンズが大嫌いである。そして幅広のフォーカスリングが付いている点も評価できる。ニコンの18-55mmなど前玉は回る上に、フォーカスリング自体がなく、鏡胴を直接つかんで回すだけという最悪の仕様。感触はスカスカでもないよりははるかにいい。そしてズームリングは非常に滑らかでしっとりしたトルク感がありフィーリングが良い。ペンタックスのレンズは安価なキットレンズでも作りは手を抜いていないところが素晴らしい。
ただレンズの全長が35mm付近で最短になるのはやっぱり使いにくい。広角端か望遠端で最短になってくれれば容易に収納できるのだが、真ん中で最短になるのは合わせるのがめんどくさいのだ。ニコンもそうだったけど、これだけはズイコーデジタルの優れている点。
さて次は本題の描写性能に移ろう。まず最も問題の多い18mm端から。開放f3.5と常用絞りのf8で比較してみる。切り抜くのが面倒だからフルサイズの等倍画像を載せておく。クリックで拡大できるが、巨大なので注意。閉じられなくなったらESCキーを押す。こういうテストではピント位置が動いてしまうと意味がないので、ライブビューで正確にピントを合わせた後、MFに切り替えてピントを固定している。ピントは中央やや右寄りの木に合わせている。
開放では中心付近はまずまずシャープだと思うが、右上の山の木立が明らかにボケている。f8まで絞ると周辺は良くなるのかと思ったら、あまり変わらない。多少はハッキリしているが、まだボケているのがわかる。そして中心は逆に甘くなったような気がする。
ここで注目すべきはどちらも手前側はシャープだという点。通常、被写界深度は手前側に浅いから、いくら広角でもこのくらいの近距離になるとボケるはずである。しかし手前までピントが来ているということは、画面周辺では前ピン傾向になることを示している。これはいわゆる像面湾曲の影響だろうと考えられる。
そこでこんな実験をしてみた。フォーカスをMFに切り替え、フォーカスリングを無限遠いっぱいまで回した状態から、少しずつ手前側にずらしていき複数枚撮影する。もちろん絞りは開放だ。それでどこにピントが来ているかを見れば、像面が湾曲していることはわかるはずだ。
まずこれが無限遠いっぱいまで回したときの中心部。実際にはもう少し手前で合焦するため、後ピン気味になっており、明らかに甘いのがわかる(クリックで等倍表示)。
同じ画像の周辺部だが、こちらは無限遠いっぱいまで回したときに最もシャープになることがわかっている。つまり中心部では少し後ピンになるくらいでちょうどピントが来るのだ。
今度はピントを少し手前側に移動させた場合の中心部。フォーカスリングの角度にして1度あるかないかくらいの微妙な違いだが、このとき中心部では最もシャープになる。センターのフォーカスエリアでAFするとだいたいこのくらいの位置に来る。
同じ画像の周辺部だが、明らかにボケている。つまり中心にピントを合わせると周辺では前ピンになってしまうのだ。
以上まとめると、周辺にピントを合わせるためにはフォーカスリングを無限遠いっぱいまで回す必要があり、一方中心部では無限遠よりやや手前で合焦する。本来なら平面であるべき焦点面が湾曲しているということなのだ。したがって両方にピントを合わせることは不可能となる。像面湾曲というのは非常に厄介なもので、絞ってもほとんど良くならない。なぜかというと厳密にはピントは一点にしか合わないからだ。フィルム時代は少し手前にピントを合わせておいてf16まで絞ればほぼパンフォーカスになってそれでよかったのだが、デジタルでそのやり方は通用しない。厳密にピントを合わせたい場所に合わせなければいくら絞ってもやはり甘い画像になってしまう。したがって中心を捨てるか周辺を捨てるか二者択一を迫られる。
最初のサンプルからもわかる通り、像面湾曲のおかげで手前側にもピントが来ており、むしろ歓迎されるケースもあり得るだろう。しかし風景写真の場合、手前側より奥にピントが来てほしいケースが多い。無限遠がきっちり出ていないと気持ち悪いのだ。したがって、できるだけピントは後ろ側へ持って行きたい。AF微調整でやや後ピン気味にしておくという手もあるだろうが、それだと逆に至近側や望遠側では正確なピントが出なくなって具合が悪い。これはAFの精度不良ではなく、あくまでも中央にはピントは合っているのだ。こういう場合、もはやAFで微妙なピント調整をすることは不可能で、MFに頼るしかなくなる。周辺を重視したければ無限遠いっぱいまで回す、中央を重視したければ少し手前側に合わせるということを指先の微妙な感覚で行うのである。こういうときクイックシフトフォーカスがないのはちょっとめんどくさい。
なお像面湾曲の問題は広角端付近でしか起こらない。広角端に比べて標準域より望遠側は良好だ。次に35mmでの描写を示す(クリックで等倍表示)。
このレンズのスウィートスポットはやはり35mm付近だろう。開放からこれだけ解像すれば安レンズとしては十分ではないだろうか? もちろんf8まで絞れば文句の付けようがない。
次に55mm端での描写を示す(クリックで等倍表示)。
開放でも周辺までよく解像しているのだが、若干フレアっぽいというかコントラストが低い気がする。しかしf8まで絞ればコントラストも上がってクッキリした描写になる。このクラスの標準ズームは望遠側が落ちることが多いが、望遠側でこれだけしっかりした描写をするのは立派だ。
最後にマクロ域について。このレンズはズーム全域で25cmまで寄れるので、望遠側ではかなりの接写が可能である。下のサザンカは最短撮影距離で撮影したものだが、およそ直径5センチの花がここまで拡大できる。
55mm 最短撮影距離で撮影 ノートリミング
ただ望遠側の至近距離ではちょっとした問題が生じる。以下、中心の蘂(しべ)の部分を切り出した等倍画像を示す。
ピントの芯は出ているのだが、全体にふわっとソフトな感じになっている。これはフレアが出ているためだ。遠景のテストでも55mmの開放はややフレアっぽかったが、それが至近距離ではさらに顕著になるということだろう。
至近距離でもf8まで絞るとフレアは消えてクッキリした描写になる。したがって、55mm端でマクロ撮影をするにはf8以上に絞った方がいいだろう。マクロの場合、開放で撮りたいことが多いのでちょっと残念な点ではある。もちろんそれを逆手にとって、ソフトフォーカス効果を楽しむというのもアリだろう。
以上総括すると、photozoneのレビューとほぼ一致する結果が得られている。像面湾曲が酷いのは18mm端だけで、少し望遠寄りに振ればほとんど問題なくなる。35mmより望遠側ではまったく問題ない。18mm端では使いこなしに職人的な器用さを求められるが、それ以外の焦点距離では及第点以上の描写が得られると言っていいだろう。実質1万円未満の安レンズとしては不足はない。
次のレンズとしてSIGMA 17-70mmF2.8-4が最有力視されているが、またちょっと迷いも出ている。というのもDAL 18-55mmの軽さを捨てがたいからだ。18mm側の描写はクセがありすぎて使いづらいが、この軽さでこれだけ写るのであれば十分魅力的。というか、これ以上重くするとK-30の活躍シーンが一気に減ってしまう。そこで軽量化を優先させて単焦点という選択肢も出てくる。もちろん最有力候補は激安のDA 35mmF2.4だ。(笑)