センサーサイズの嘘

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デジタルカメラ

普段何気なく使っている1インチとかフォーサーズ(4/3インチ)といったイメージセンサーのサイズについて、正しく理解している人がどのくらいいるだろうか? 実は自分もとんでもない誤解をしていたことに最近気付いたので啓発の意味を込めて改めて記しておく。

事の発端はスマホに搭載されているカメラのセンサーサイズについて調べていた時である。スマホではだいたい1/2.5インチ~1/3インチ程度の極小センサーが搭載されていることが多い。自分のスマホがどういうセンサーを使っているかはハードウェアのスペックを調べるアプリを使えば情報を取得することができる。たとえば下のデータは手持ちのスマホについてカメラのスペックを取得してみた結果である。

ここでセンサーサイズは4.66mm×3.49mmであることがわかる。確かに小豆大くらいの極小センサーであることは間違いない。センサーサイズは対角線の長さで表すことが慣例になっているため、Diagonal(対角)の欄を見てみると5.82mmとなっている。

これをインチに直してみると、1インチは約25.4mmであるから、5.82/25.4=0.229インチとなる。よく使われている逆数表記に直すと1/4.36インチということになる。

ここで「あれ、おかしい?」と疑問に思った。いくら何でもそんなに小さいセンサーはないだろう。どう考えても計算が合わないのだ。

そこでデジタルカメラでも一般的に使われている1インチセンサーについても考えてみた。いわゆる1インチセンサーのサイズは規格により13.2mm×8.8mmと決められている。対角線の長さは三平方の定理により下のようにして求められる。

対角線の長さ=√(13.2×13.2 + 8.8×8.8)=15.9mm

ここで計算が合わないことに気付くだろう。15.9mmというのはインチに直せば15.9/25.4=0.63インチとなる。つまり、ぜんぜん1インチに足りないのだ! う~ん?と頭を抱えてしまった。

今の時代、わからないことが出てきたらまずネットで検索である。Googleで1インチセンサーについて検索をかけてみると、意外にも疑問に答えてくれるサイトはほとんどなく、唯一見つかったのが下の記事である。

意外と知らない1インチセンサーの真実

この記事を読んで一気に疑問が氷解した。何と1インチセンサーの定義そのものが違っていたのである。1インチセンサーというのは対角線の長さが実際に1インチあるという意味ではなかった。これは歴史的な理由により、かつて1インチセンサーと呼んでいたものの名残なのである。

昔のビデオカメラは今の半導体センサーではなく真空管の一種である撮像管というものを使用していた。その真空管の外径が1インチであったところからそう呼ばれるようになった。しかし真空管を想像してもらえばわかるように真空管全体で光を受けているわけではない。実際に光を受けるセンサーに相当する部分は外径よりもっと小さく、だいたい2/3程度であった。1インチセンサーの対角線サイズが15.9mmなのはここから来ている。つまり、半導体センサーの時代になっても外径が1インチの真空管が持つ受光部と同じサイズのセンサーを慣例的に1インチセンサーと呼ぶことになったのだ。

したがってセンサーサイズを計算する場合には25.4mmではなく、15.9mmすなわち0.63インチを基準にしなければならないということである。これによると、最初のスマホの例では5.82/15.9=0.366、逆数に直せば1/2.72ということになる。これでようやく辻褄が合った。

フォーサーズセンサーの場合、実際に4/3インチあるとすれば対角長が33.9mmということになるが、どう見てもそんなにないことは明らかだろう。本当は15.9mmの4/3倍で21.2mmである(これは誤差を含んでおり、実際には約21.6mmである)。これなら確かに実感としてわかる。

ちなみに業界では1インチという呼び方はせず、1型と呼んでいることはおわかりだろう。デジタルカメラのカタログスペックには必ずそう書いてある。これは1インチと書いてしまえば嘘を言っていることになるからである(もちろん日本国内ではSI単位系を使わなければならないという計量法上の理由もある)。

普段センサーサイズにはうるさいデジカメマニアも意外とこういうことは知らないのではないだろうか? センサーサイズの本当の意味も知らずにフルサイズ万歳、フォーサーズはクソ!とか言っている気がする(笑)。もしそうだとすれば恥である。案外、デジカメのライターも知らずに書いていそうな気がするな。

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