ナニワカラーキットで自家現像

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伊勢本街道 2011年11月 CONTAX T3 / efinity UXi super 200

その昔、ネイチャーに夢中だった頃、フィルムと言えばリバーサルしかあり得なかった。リバーサルで撮れば色鮮やかな発色が得られ、露出も自分の思い通りになる。一方、カラーネガはくすんだ色しか出ず、しかも写真屋に勝手に露出を変えられるのが腹立たしかった。だからごく初期の頃を除いて、カラーネガなんか使ったこともなかった。あんなものは素人が使うフィルムだとバカにしていた。リバーサルを使う限られた者だけが「プロみたいな写真」を撮れた時代。色がキレイなだけで「すごい写真ですね」と誉められた。今思えばなんていい時代だったのだろう。しかし今は誰もがデジタルカメラを使うようになり、色がキレイな写真なんて当たり前になった。もはやただ綺麗なだけのネイチャーフォトなんて誰も誉めてくれない。そんなものは掃いて捨てるほど世の中に溢れている。だから自分はネイチャーから撤退した。

デジタルカメラの描写というのは、一言で言えば色鮮やかでコントラストが高く、リバーサルフィルムの描写に非常に似ている。だからあっという間に誰もが「プロみたいな写真」を撮れるようになった。デジタルカメラに最も相性が良いのはネイチャーフォトだと思う。解像力と色鮮やかさが命だからだ。わざわざリバーサルで撮っても結局デジタルと同じような描写にしかならないのだから、フィルムを使う意味がないといえる。もともとリバーサルは印刷原稿としてプロユースでの需要が多かったから、そちらの方から先にデジタル化が進んでしまい、需要が激減した。それでコダックをはじめ、リバーサルフィルムが相次いで生産終了になったのは周知の通りである。一般向けのカラーネガの方が先にデジタルに食われると予想していたので、これは意外な展開だった。

そうなるとあれほど毛嫌いしていたカラーネガの方が逆にクローズアップされてきた。リバーサルで撮ればデジタルと同じような描写にしかならないが、カラーネガで撮れば独特の柔らかい階調と粒状性により、いかにもフィルムらしい写真が得られる。デジタルがリアリティーの追求だとすれば、カラーネガはむしろ絵画に近いと言える。写実派と印象派くらいの違いがある。キレイな写真があまりにも当たり前になった時代に、カラーネガのどことなく古くさい描写が逆に新鮮で芸術的に見えてくる。キレイすぎるのがつまらないなんて、人間とは実に勝手なものだ。かくして今ではフィルムといえばカラーネガを使う人の方が圧倒的に多くなった。自分もフィルムを使うならデジタルと違わないと意味がないので、カラーネガをメインに使うようになった。もちろんリバーサルより安いという理由もあるだろう。カラーネガも高級なのはリバーサルと同じくらいするが、最近は海外製の安いフィルムが通販で簡単に購入できて、1本200円を切るものまである。トップの写真で使ったefinity UXi super 200も1本250円くらいだったと思う。カラーネガを使うなら、むしろ今の方が安いと言える。

しかし、いくらフィルムが安いといってもやはり現像代はかかる。スキャンが前提であればプリントはせず現像のみの依頼となるが、近くの写真屋では1本550円だ。ヨドバシあたりだともっと安いのかもしれないが、田舎なのでそんなものはない。これをもっと安くできないかと思って見つけたのが、ナニワカラーキットという自家現像薬品セットだ。もともとモノクロの現像はやったことがあるので、現像用品は一通り揃っている。だからあとこのキットを買えば自宅でカラー現像が可能になる。昔はリバーサルしか興味がなかったから、そんなものが存在すること自体知らなかったのだが、自分でカラーネガの現像ができることに驚いた。昔からカラー現像は難しいと言われていて、素人が手を出すものじゃないと刷り込まれてきたからだ。でもそれを見つけて自分は興味津々だった。フィルムの現像というのはお金がかかると言うことよりも、写真屋に持って行くことの方がめんどくさい。しかも一度だけじゃなくて、引き取りにもう一度行かなければならない。そんなめんどくさいことをするくらいなら、自分で現像する方がよっぽどいい。コストが安いことよりも、家から一歩も出ずに完結できることの方が魅力的なのだ(笑)。


伊勢本街道 2011年11月 CONTAX T3 / efinity UXi super 200

うまくできるかはやってみないとわからない。それで早速ナニワカラーキットNというものを購入した。価格は2,520円だった。1L用の薬剤がセットになっており、35mmフィルム約20本の処理ができるとされている。するとフルに使えば一本あたりのコストは126円くらいになるわけだ。これは大いに魅力的ではないか。

ただし、これには大きな落とし穴がある。カラーの現像液はモノクロ用に比べて保存寿命が短く、一度調合するとすぐに使い切らなければならない。説明書には7~10日以内に使えと書いてあった。一応、現像液は2回に分けて500mLずつ調合できるようになっているのだが、それでも10本を10日以内に処理しなければならないことになる。これは自分の場合、絶対無理だった。普段デジタルカメラを使っているとそんなに大量にフィルムを使うことはない。せいぜい月に1~2本が限度だ。これじゃ確実に無駄にしてしまう。もし1本しか処理しなければコストが1,260円になってしまうのだから、写真屋に出した方がよっぽど安いことになる。

そこで自分は考えた。うちは250mL用の現像タンクを使っているので、500mLをさらに2つに分けて250mLずつ調合すればいいのだ。これなら全部で4回分、それぞれ5本ずつ処理できることになる。これを10日以内に使い切ればいいわけだが、ネット情報によると実際には1ヶ月くらいは保つらしい。そんなに慌てなくてもいいのだ。1ヶ月に5本くらいなら何とか撮れないことはないと思った。

それで早速やってみた。カラー現像といっても実に単純で、現像と定着の2浴式だから、モノクロよりむしろ簡単なのだ。処理温度が30℃というのも都合が良い。モノクロの場合、夏場に20℃を保つのは大変難しいが、30℃なら年間を通して容易にできる。温度管理もそんなにシビアになる必要はなくて、±1℃くらいに収まっていれば問題ない。モノクロ現像をやったことのある人なら誰でも確実にできる。現像約6分、定着約7分、水洗約5分を順番にやるだけ。ここまで準備と後片付けを含めても1時間だ。あとは吊して自然乾燥させておけばよい。これなら写真屋に二度往復するよりよっぽど楽だと思う(笑)。

肝心の仕上がりだが、写真屋に出すのと何ら変わらないと思う。他人に傷を付けられたりすることもないので、むしろ良いくらいだ。厳密に言うとカラーバランスなど微妙なのかもしれないが、どうせスキャンしてしまえばまったくわからない。普通にきれいに写っている。何でも自分でするのが好きな人には大満足だろう。何よりも現像タンクの蓋を開ける瞬間のワクワク感がたまらない。この喜びはやった人にしか絶対わからないだろう。そこにモノとしての実体があることに、デジタルにはない感動があるのだ。

結局、全部で22本処理できた。完全に元は取れた(笑)。フィルム代と合わせて一本あたりのコストが400円ほどだから、これならしょーもない写真だろうがバシバシ撮れる。現像液も密栓して冷蔵保存すれば2ヶ月は保つことが確認できた。できるだけ1ヶ月以内に使い切った方がいいとは思うが、そこまで慌てなくてもいい。最悪2ヶ月で5本なら何とか撮れなくはない。


伊勢本街道 2011年11月 CONTAX T3 / efinity UXi super 200

ここで載せた写真は昨年の11月に撮ってナニワカラーキットで現像したものだ。実はこれ以降、フィルムを1本も使っていない。カラーネガの在庫が切れたこともあるが、ナニワカラーキットに疲れてしまったのだ(笑)。なぜかというと、2ヶ月に5本は絶対撮らなければならないというノルマが課されてしまうからだ。現像液の使用期限を気にして、追われるように写真を撮らなければならない。それに疲れた。昔のように月に5本はコンスタントに撮っている状況なら何でもないのだが、デジタルカメラを使っていると月に1本でも相当しんどい数字である。昨年の22本というのは、相当に無理して撮った結果だ。だからもしコストだけが目的なら、自家現像などやらずに写真屋に出すべきだ。月に1~2本しか撮らない人は元が取れないからやめた方がいい。失敗するリスクも多少なりともあるのだから、その方が精神衛生上も良いだろう。自家現像をやるのは、写真屋に行くのがめんどくさい人(笑)、研究心が旺盛な人、増感処理など特殊なことをやりたい人くらいにしか勧められない。というわけで、ナニワカラーキットを購入したのは後にも先にも一回きりだ。

ここまで書いてきて最後に言うのも何だが、実はナニワカラーキットはすでに生産を終了しているという話である。発売元のエヌエヌシーによると、原材料の調達が難しくなったため再開の見通しは立っていないという。フィルムの需要が激減しても、一定の需要はあるそうなので実に惜しい話である。これから自家現像をやるなら、個別に薬品を調達して自家処方するしかないだろう。ますますハードルが高い。今のところ、流通在庫はまだ残っているようだから、もしやってみたい人がいたら早めに入手することをおすすめする。

フィルムを取り巻く状況は年々厳しくなってきているが、自分のように使わない人間が悪いのだ。使用期限の切れたEliteChromeの最後の一本をF3に入れたのだが、夏から未だに撮りきれずに入ったまま(苦笑)。デジカメばっかり使ってると、ほんとにフィルムが使えない。たくさん撮れないことよりも、一本撮り終わるまで現像に出せないことが辛いんだなぁ・・。だからどうしてもデジカメに行っちゃう。といいつつ、また激安のカラーネガを10本も仕入れてきたりする(爆)。まだ一本も手を付けてないので、どうしようか途方に暮れている。フィルムはフルサイズ欲を満たすために使う、それが正しい使い方だと思う(笑)。

コメント

  1. ゆたか より:

    こんにちは。

    まったくおっしゃる通りですね。

    私は、リバーサルだとフィルム代と現像代で1コマ50円以下を目標にしていましたが

    最近は、デジカメの購入価格を撮影カット数で割り算して、1カット5円以下を目標にしています。

    そうそう、T3まだお使いなんですね。私もしばらく使っていました。

    写りは素晴らしかったのですが、露出補正が面倒ですよね。メーターも敏感だったような気がします。

  2. オーナー(考え中) より:

    >ゆたかさん

    カラーネガでも1カット5円は無理ですね。自家現像して10円ならできると思います。
    デジカメも減価償却を考えると、毎月2000円くらいコストがかかってるんですよ。
    だから月にフィルム2~3本使うのとトントンなんですね・・
    デジカメは使わないほど1カットあたりのコストが高くなります(だから重いカメラはダメ)。

    T3は測光がかなりスポット的ですよね。
    それは逆に正確な測光が可能なので、自分は露出補正よりAEロックを多用します。