ベルビア+PL=コテコテ

投稿日:2012年10月17日 更新日:

フィルム


乗鞍高原の秋 2000年10月 F3 / SIGMA 28-70mmF2.8EX / RVP

その昔、富士のベルビアというリバーサルフィルムにPLフィルターを組み合わせて使うのがネイチャーフォトの定番であった。いや、今でもそのスタイルは変わってないだろう。今やリバーサルといえばプロビアかベルビアしかないのだから、選択肢すらない。ベルビアは高彩度が売り物のフィルムで、それだけでも相当濃い発色をするものだが、それにPLフィルターを付けると輪をかけてどぎつい発色になる。まさにコテコテ写真だ。上の写真は別に誇張したものでも何でもない、できるだけ原版に忠実にスキャンしただけだが、本当にこのくらいド派手に写る。


ベルビアとPLフィルターの組み合わせが流行ったのは、間違いなく竹内敏信氏の影響だろう。それまで大判や中判が中心だった風景写真の分野に135判一眼レフとズームレンズの組み合わせを持ち込んだのも氏の影響が大きい。これをきっかけにネイチャーフォトが大ブレイクし、折しも定年後の生き甲斐探しみたいなキャンペーンに踊らされ、熟年カメラマンが大量発生したのもこの頃である。

自分も2000年頃までベルビアをメインに使用し、必ずと言っていいほどPLを使用していた。これはもはや麻薬みたいなもので、一度使ってしまうと、それ無しでは撮れなくなる。ただド派手に写ることに酔いしれて、それだけでいい写真を撮ったような気分になってしまっていた。今から思えばあまりにも幼稚だが、結局は「竹内敏信風ネイチャーフォト」を撮ることに終始していたのだろうと思う。

当時メインで使っていたレンズは28-70mmF2.8と70-200mmF2.8の2本であったが、いずれもフィルター径77mmの大口径だ。PLフィルターというのは他のフィルターに比べてかなり高価なものだが、いちいちフィルターを付け替えるのが面倒だから、すべてのレンズに付けていた。まさに保護フィルター代わりだったのだ。だから今でもうちには各種サイズのPLフィルターがゴロゴロしている。(笑)

ベルビアはISO50の低感度フィルムだから、晴天時でもf11・1/60秒が基準露出となる。さらにPLを付けると約2段分暗くなるので、f11・1/15秒くらいになってしまう。こうなると手持ちは不可能で、三脚が不可欠となる。もともと大判・中判カメラには三脚が必須だから、そういうことにはあまり無頓着なのだろうが、機動性を武器とする135判カメラにまで三脚を常用することは大いに疑問が残る。三脚を使うことによる弊害といえば、まずアングルが制約されること。極端なハイアングルやローアングルは難しいし、場所によっては三脚を立てることさえ困難なことがある。どうしても邪魔なものがあって三脚を立てられず、撮影をあきらめたこともしばしばある。そして撮影に時間がかかることも大きな問題。たとえば車で走っていて良い風景を見つけた場合、たった一枚撮るだけでも、車を停めて三脚を立てていると最低5分はかかる。これをやっているとなかなか目的地に着かない。三脚の煩わしさは撮影の楽しさを大いにスポイルする。

三脚の弊害といえばもう一つある。それは歩かないということだ。有名な撮影現場へ行ってみればわかるが、だいたいネイチャーカメラマンは重装備である。超高級フルサイズ一眼レフに大口径ズームが当たり前だ。当然、機材だけで3kgは優に超えるだろう。さらに巨大な三脚を当たり前のように使う。それだけで4~5kgはあるだろう。そうなるともはや歩くということが物理的に不可能になる。僕は事あるごとにネイチャーカメラマンを槍玉に挙げているが、正確に言うと歩かないのではなく、機材が重すぎて歩けないのだ。だから彼らはどこへ行くにも車を使うし、歩くところへは行かない。そしてできるだけ歩く距離を短くしようとする。すると他人の迷惑を顧みず、所構わず車を停めることなど日常茶飯事なのだ。立ち入り禁止区域に入るなどは言うに及ばず、ネイチャーカメラマンはとにかくマナーが悪い。それがネイチャーカメラマンを嫌う理由、そしてネイチャーから撤退した理由だ。すべては三脚のせいと言ってもいい。三脚こそ諸悪の根源なのだ。

せっかくデジタル時代になって高感度も使えるようになったのに、三脚という重りを付けて自由を束縛するのは馬鹿らしいと思わないのだろうか? 僕はデジタルカメラを使うようになってからPLをまったく使わなくなった。PLをやめれば三脚もいらない。どういうわけか、デジタルではPLを付けても効果がないか、むしろ逆効果なのだ。たとえば下の写真を見ていただきたい。


E-520 / ZUIKO Digital 14-42mmF3.5-5.6

これはPLを付けて撮影したものだが、JPEGそのままの画像で何も調整はしていない。明らかに色が変だろう。普通フィルムならPLを付けると青空の濃度が上がるが、デジタルではむしろくすんだ色になってしまっている。紅葉も何となく黄色っぽくて変な色だ。もしかするとオリンパスだけの問題かもしれないし、PLフィルターが経年劣化で変色しているだけなのかもしれないが(笑)、デジタルとPLの相性は良くないと思っている。というより、デジタルではPLを付けなくても十分鮮やかな色が出る。もちろん後処理で彩度を上げることなどいくらでもできるのだから、彩度を高めることが目的でPLを使う理由などもはやないと言える。これも想像の域を出ないが、撮像素子の前にあるローパスフィルターには偏光板が使われているから、PLがそれに干渉して悪影響を及ぼすことは十分あり得ると思う。

というわけでデジタルではPLを使わなくなったのだが、すると実にフットワークが良くなる。まずフォーサーズではあまり絞らなくてもパンフォーカスが得られるから、絞りf8で十分だ。最近のオリンパス機はISO200が基準感度だから、晴天時ならf8・1/500秒が適正露出となる。これなら望遠レンズでも三脚は不要である。少々暗くても、いざとなれば手ぶれ補正があるから鬼に金棒だ。どうしても三脚が必要なのは滝の撮影くらいだろう。フォーサーズこそネイチャーフォトに最も適したカメラなのだ。僕はフォーサーズを使ってからネイチャーを撮るのが楽しくなった。三脚がいらない自由って素晴らしい。超ド級カメラと三脚の重みに縛られて動けないネイチャーカメラマンを横目に、軽量なフォーサーズで野山を自由に歩き回り、三脚では絶対撮れないようなアングルで撮ってニヤニヤすることが僕の密かな楽しみである。

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