自転車とカメラは相性が悪い

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デジタルカメラ

街をブラブラ歩きながら写真を撮る「散歩写真」は昔から写真趣味の一ジャンルとして定着しているが、それの自転車版が「フォトサイクリング」というスタイル。「カメラサイクリング」「カメラポタ」などと呼ばれることもあるが、いずれも同じ意味。要するに自転車に乗りながらお気に入りの風景などをスナップしていくという撮影手法を言う。しばしば自転車の新しい楽しみ方として、自転車雑誌などで特集を組まれたりするも多い。そこでは必ず「自転車とカメラは相性が良い」ということがクローズアップされ、カメラを持って気ままにサイクリングするのは楽しいよと煽っているのである。

しかしこの道ウン十年の自分に言わせれば、それは幻想である。実際には自転車とカメラは相性が悪いどころか最悪である。自転車が先かカメラが先かわからないくらい昔からやっているが、この二つは二律背反であり、どちらかを立てればどちらかが犠牲になる。だから両立は絶対に不可能。「自転車とカメラは相性が良い」なんて自転車もカメラもよく知らない素人の戯言だろう。やってみればすぐわかるから、これだけは断言する。

もう長年語り尽くされた話題ではあるが、自分がカメラに興味なくなった原因の一つでもあるので、改めて掘り下げてみたい。

自転車で撮るメリット

どこでも止まれる

クルマで移動していると、いいなと思った風景があってもまず止まれない。街中はもちろん、山間部でも道が狭くて停められる場所は少ない。みすみす良い風景を逃して地団駄を踏むことになる。しかし自転車ならどんな場所でもすぐに止まって写真を撮ることができる。クルマでは発見不可能な隠れポイントを見つけることもある。それが最大のメリットだろう。

どんな細い道でも入れる

クルマで狭い道に入るのは憚られる。街中の路地みたいなところは特にそうだが、山間部の延々と続く1車線道もひたすら疲れる。できればそういうところに行きたくない。停められる場所もほとんどないし、行ったり戻ったりすることもできない。その点、自転車ならどんな狭い道でも気にせず入っていけるし、場所移動も自由自在だ。

機動力がある

写真を撮りながら徒歩で移動できるのはせいぜい中小都市の中くらいだろう。郊外を何キロにも渡って歩くのは変化も乏しく辛いものがある。しかし自転車なら一日に数十キロ、人によっては百キロ以上もの移動が可能だ。この機動力こそが徒歩に比べての圧倒的なメリットとなる。

自転車で撮るデメリット

カメラの携帯方法に難あり

カゴの付いたママチャリは別として、サイクリングに使うような一般的なスポーツ自転車は荷物を積むところが少ない。したがって一眼レフのような大型のカメラを携帯することは非常に困難なのだ。そのため自転車で持って行けるとなると、どうしてもコンデジのような小型カメラに限られる。いくら良いレンズを持っていても、そういうかさばる物はサイクリングには持って行けないのだ。これが
最大にして本質的なデメリットと考えているので、後に詳しく解説する。

自転車は急に止まれない

徒歩の一番良いところは、何か心に触れるものがあればすぐに止まれることだろう。だからこそ散歩写真は個性的な写真を撮りやすい。しかし自転車というものはいいと思ってもすぐには止まれないんだ。あっと思った瞬間にはもう通り過ぎている。そんなにスピードを出していなくてもそうだ。その風景を撮りたいと思ったらわざわざ戻らなければならない。それがめんどくさくなって、もういいやとなってしまうことも往々にしてある。やはり写真を撮るには歩くくらいのスピードがちょうどいい。

走る楽しさをスポイルされる

ガチで自転車に乗ってる人ならわかるだろうけど、信号で止められるのはもちろん、止まることが一番嫌なんだ。なぜかっていうと、自転車というのは自力だけで風を切ってグングン進む爽快感を味わうために乗っているから。調子良く走ってるときにできるだけ止まることは避けたい。それはサイクリストの本能みたいなものだ。しかし、写真を撮ってると当たり前だが止まらざるを得ない。絶景が続くとたびたび止まってなかなか前に進まなくなる。これは誰しも経験があるだろう。つまり写真を撮ることに気を取られていると、自転車本来の走る楽しさをスポイルされてしまうのだ。これが自転車とカメラは両立できないと力説する所以である。

自転車でカメラを携帯する方法

自転車で写真を撮ることの最大のデメリットはカメラの携帯が困難であることを述べたが、ここではカメラの携帯方法についてもっと深く考察してみよう。

フロントバッグ

最も理想的なカメラの携帯方法は、ハンドルの前に付けるフロントバッグに入れることである。感覚的にはママチャリの前カゴに近い。この位置なら止まってすぐカメラを取り出せるため、写真を撮るには何かと都合が良いし、体に負担がかからないのが何より良い。

ただこの方法には大きな問題点がある。まずロードバイクに取り付けられるようなハンドルに引っかけるだけのフロントバッグは容量が小さく、コンデジかせいぜいミラーレス一眼くらいしか入らない。それも大きなレンズは無理だ。一眼レフや大口径レンズともなると重量に耐えられないので、昔からあるような帆布製の大型フロントバッグが必要になるが、そういうものは重量を下から支えるためにキャリアが必須となっている。しかし普通のロードバイクにはキャリアを取り付けることはできないので、ランドナーやグラベルロードのような車種に限られる。つまり自転車で写真を撮ろうとすると乗れる車種が限られてしまうことが問題なのだ。自分も昔はフロントバッグを付けるためだけにミニベロに乗っていたことがあるが、そうすると走行性能が格段に劣る。行動範囲が制約され、走る楽しさが損なわれてしまうのだ。

リュック

最も手っ取り早い方法は、リュックに入れて背負うことである。特別な装備は何もいらないから手軽だ。昔は自分もこうしていた。ただこの方法だと写真を撮るたびにリュックを下ろしてカメラを取り出すことになるので、とても時間がかかる。それがめんどくさくて写真を撮ることが億劫になるのは間違いない。どこか一つの観光地にでも行って、自転車を置いて歩いて撮るなら使えないことはないが、道中で止まって撮るというスタイルには最も不向きな方法である。

ウェストバッグ

リュックの代わりに腰に着けるウェストバッグというものもある。サイズはいろいろだが、大きめのバッグならミラーレス一眼程度は入る。もっと大きな一眼レフだとカメラ用品として市販されているクッション入り超大型ウェストバッグが必要になる。撮影の際は背中にあるバッグを手前に回せば良いので、リュックよりは速写性が高い。

自分も試してみたことはあるが、経験上ウェストバッグはリュックよりも体への負担が大きい。重さが腰に来るのだ。おそらくリュックと違って腰ベルト一本に重量が集中することが原因だろう。したがって走行パフォーマンスに大きな影響を与え、走ることが楽しくなくなる。自分は体に物を着けるのが何より嫌いなので、この方法は受け入れがたい。

背中にたすき掛け

ストラップを肩からたすき掛けして、一眼レフを裸のままで背負っている人をたまに見かける。確かにこの方法なら撮る時はカメラを前に回すだけで良いので速写性がある。写真を撮ることが主体なら理想的なスタイルと言えるだろう。

自分もこの方法を真似してみたことはある。普通のストラップではよほど短くしないとブラブラしてしまうので、速写ストラップなるものを使った。背負うときは一番短くしておき、撮る時はワンタッチで伸ばせるという便利グッズである。しかしこれを使っても走っているときはやはりずり落ちて来るのが鬱陶しかった。またカメラを背負うと背中にゴツゴツ当たって非常に不快であった。慣れると気にならないという人もいるが、この状態でとても長距離走れるとは思えない。何よりこの方法は万一転倒した際に体へのダメージが大きいのでやめた方がいい。最悪、脊椎損傷する恐れがある。もちろんカメラもぶっ壊れるし。

結局、小さなカメラしか持てない

上に述べたどんな方法を使っても、一眼レフのような大きなカメラを携帯することは非常に困難である。不可能ではないかもしれないが、それをやると自転車で走る楽しさが確実に損なわれる。これは自分が長年の経験から導き出した結論。自転車で携帯するにはやはりコンデジが最適であり、今ならスマホでも十分だろう。

しかし自分のようなカメラマニアはそれでは満足できないので、ミラーレス一眼という結論に行き着いた。ただミラーレスと言っても結構でかい。そこで選んだのがLUMIXのGM1だ。マイクロフォーサーズとしては世界最小、実質的にコンデジと変わらないサイズ。これを買う時にソニーのRX100と迷ったのだが、やはり少しでもセンサーが大きくてレンズ交換できる方が良い。何より安かった(笑)。このカメラならレンズを付けた状態で下のようにハンドル横のポーチにすっぽり入る。しかもスマホと一緒にだ。

この方法を確立してからずっとこのスタイルを通している。一番取り出しやすい位置にあるから便利なことこの上ない。ただ最大の難点はこのカメラ以外には使えないということ。これより少しでもサイズが大きいと入らない。もちろん薄型のキットレンズ以外は無理だ。このカメラとレンズの組み合わせに限定されるというところが面白くない。

そこで気になってくるのがカメラの寿命。もうすぐ購入して6年になるが、パナは壊れやすいの噂通り、あちこちが壊れている。このカメラばかり酷使しているものだから、それも無理はない。自己補修して騙し騙し使っているが、そろそろ修理が困難になってくる時期だろう。もし完全に壊れて使えなくなったら後釜はあるのか?

GM1はすでに生産終了となっており、現行品で最も近いのはGF10くらいしかない。しかしそれでもGM1より縦横ともに1センチほど大きく、それだけでもうポーチには入らない。最近のパナはフルサイズに行ってしまってマイクロフォーサーズはやる気なさそうだけれども、GM1のような超小型路線はぜひとも復活すべきである。

GM1と同等のサイズといえば、かつてはニコンのNikon 1シリーズがあった。1インチセンサーという違いはあるけれども、やはりレンズ交換できる本格的なシステムカメラ。ニコンは1シリーズをやめちゃったのが本当にもったいない。Zシリーズみたいなクソでかいカメラ作ってる場合じゃないよ!

結局のところ、自転車で写真を撮ろうとすると性能にこだわったメインカメラは持って行くことができず、サイズ最優先にならざるを得ないところが致命的なのである。自転車はカメラの携帯手段としては徒歩よりはるかにキャパが低い。これは誰もが認めるところだろう。機動力と携帯性のトレードオフであり、両立は不可能だ。

被写体が風景から自転車へ

昔は自転車で写真を撮ると言っても、あくまでも主役は風景だった。自転車を撮ることはあまりなかったし、撮ったとしても点景としてさりげなく入れる程度である。しかし今では逆に自転車が主役になりつつある。ただの風景写真ではなく、自転車のある風景として撮りたいのだ。たとえばこんな感じの写真。

ネイチャーフォトをやっていた頃は風景に人工物を入れてはいけないというのが暗黙の掟だったから、自転車を入れるなんてもってのほかだったのだが、最近は自転車そのものが被写体として魅力的に思えてきた。これはSNSの影響が強いと思われる。SNS上ではきれいな風景をバックに愛車を撮った写真が溢れている。中には背景が大きくボケて自転車が立体的に見える写真がある。こういうのは明らかに一眼レフで撮られたものだろう。自分もこんな風に自転車をかっこよく撮りたいと思うようになった。被写体が自転車になっただけで、これは本質的にポートレートと同じなのだ。

しかしここで大きな問題がある。背景をボカすには明るいレンズが必要だ。今あるキットレンズの12-32mmF3.5-5.6では開放で撮ってもボケてくれない。もちろん拡大して見ればボケてるだろうけど、少なくともスマホの画面で見たってボケてるようには見えない。ボカすためには自転車全体を入れてはダメで、思いっきり寄ってハンドルとかサドルなどの一部を入れるしかない。そこが大きな不満。結局、ミラーレス一眼を使ってもスマホと大して変わらない写真しか撮れないのである。

手持ちのレンズで単焦点といえばシグマの19mmF2.8くらいしかないが、広角だからおそらくボケないだろう。オールドレンズならあることはあるが、MFだから使うのがちょっとめんどくさい。やっぱり25mmF1.7や45mmF1.8あたりを買うしかないと思う。しかし、せっかく買ったとしても今の方法では携帯することができないのだ。そこが大きなジレンマ。

不便を覚悟でK-70を背負うか、現状で妥協するかの二者択一を迫られるのである。

カメラに興味なくなった理由

この記事を書いていて、自分がカメラに全く興味がなくなった本当の理由がやっとわかった。

昔はネイチャーフォトをはじめ、散歩写真やら廃墟写真やら何かしら「写真を撮ること」が目的でどこかに出かけていた。そういう場合、もっと良い写真を撮るために良い機材が欲しくなるのは当然の成り行きである。こうして常にカメラ物欲に取り憑かれていた。

しかし今や写真を撮ることが目的で出かけることは全くない。もはや風景なんて撮る気もしない。被写体といえば100パーセント自転車である。当然、自転車で出かけるわけだから、携帯できる機材が制約される。走行性と携帯性のバランスを突き詰めれば、結局GM1とキットレンズの組み合わせ以外にはあり得ないのである。だからどんなに良い機材を買っても持って行くことはできない。それがわかっているから物欲も消えたのだ。

K-70やE-M10mk2は買ってからほとんど使っていない。今使っているのは100パーセントGM1だと言ってもいい。言うまでもなく、自転車しか撮らなくなったからだ。持って行きたくても持って行けない。そうなるとあまりにもGM1を使いすぎて寿命が心配になる。パナは機械的な部分が弱いので、そのうちスイッチが壊れたりしそうな気がする。

自転車とカメラは両立できない

自転車というのは徒歩ともクルマとも違う、特殊な環境だ。積載能力がきわめて低いという特徴がある。そこで自転車とカメラを組み合わせようとすると必ず無理が出てくる。

走行性を優先しようとするとカメラに妥協せざるを得ず、カメラにこだわると走行性を犠牲にせざるを得ない。何よりも写真を撮ることばかり気にしていると走りを楽しめない。自転車とカメラを組み合わせるとどっちもダメになる。どっちかに集中しろということだ。それが自分の長年の持論であり、今でも変わっていない。

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