オリンパスユーザーの憂鬱

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尾瀬 2010年7月 E-520 / ZUIKO Digital 14-42mmF3.5-5.6

僕が初めてデジタル一眼レフを導入したのは2009年のことである。それまではデジタルカメラといえばコンデジしか持っていなかった。もともと真面目に作品を撮るならフィルム、単なる記録はコンデジで良いという考えがあったので、デジタル一眼レフには食指が動かなかったのだ。しかし、デジタル一眼レフの性能がかなり向上し、フィルムに追いついてきた上、価格も手ごろになってきたので、そろそろ導入してもいいかという気になった。

その頃、ニコンにするかオリンパスにするかでずいぶん悩んだ。もともとフィルム時代はニコンを使っていたので、既存のレンズを共有できるというメリットがある。しかしフォーサーズの小型軽量やデジタル専用設計による高画質にも興味があった。もともとOMユーザーでもあったから、オリンパスというメーカーには一目を置いていたのだ。その頃候補となったのは、ニコンならD80かD90、オリンパスならE-520だったのだが、すでにE-620が発売されて値段が下がったこともあり、結局E-520を購入することになった。さらにその2年後、今度はE-620が値下がりしたため、E-520を売却してE-620を購入し、現在に至る。


E-620は事実上最後のE-三桁機であり、最も完成度が高い良くできたカメラである。フォーサーズ特有の高感度特性に弱点はあるが、普通に日中の風景などを撮る分には申し分のない高画質が得られて概ね満足している。フィルム時代であればカメラというものは一度買えば一生ものであり、壊れない限り何十年でも使い続けられるものであった。もちろんデジタルカメラであっても、壊れない限りは現有するカメラをいつまでも使い続けることは理屈の上では可能である。しかし実際にはそうは行かないのがデジタルの悩ましいところだ。デジタルカメラというものは発展途上の商品であるから、次から次へと新しい製品が出てくる。デジタル物の常として、新しいほど性能が向上して、しかも安くなるのが常識だ。こうなると新しいものに目移りしない方が難しい。自分の持っているカメラがどうしても古くさく見えてくる。いくら気に入っていて、何年でも使えることはわかっていても、つい新しいものに浮気したくなるのが人情というものだ。

デジタル一眼レフはコンデジに比べると高額商品であるから、新製品開発のスパンは比較的長い。しかしそれでも発売から3年も経つと相当陳腐化してくる。さらに高性能なものがもっと安い値段で出てきたりする。どんなに長く引っ張っても発売から5年が限度であろう。それ以上はよほど我慢強くないと新製品に買い換えたい欲求を抑えるのが難しくなる。もし10年も使い続ければ、それこそ化石扱いであろう。

今使っているE-620の場合、2009年発売であるから、耐用年数を5年とすると、長く見積もって2014年までは現役で使えることになる。つまりあと2年は我慢しなければならない。しかし発売からすでに3年経って、最新の機種に比べるとかなり見劣りしてきたことは否めない。それはデジタルの宿命として仕方のないこととしても、オリンパスユーザー、というかフォーサーズユーザーには別の意味で悩ましい問題が存在する。

オリンパスユーザーの方なら誰でも知っていることと思うが、2009年にマイクロフォーサーズ規格を初めて採用したPEN E-P1が発売されて以来、オリンパスは従来のフォーサーズを見捨ててマイクロフォーサーズに軸足を移してしまったのである。その後E-5が発売されて、一応表向きはフォーサーズも継続していきますということになっているが、すでにE-30やE-620は入手不能になっており、事実上フラッグシップのE-5のみが細々と生産されていることになる。この状況は何かと似ていないか? そう、かつてのOMユーザーならご存じの通り、今のフォーサーズを取り巻く状況はOMの末期とそっくりなのである。あの時はフラッグシップのOM-3TiとOM-4Tiのみを残して入門機はすべてラインナップから消えた。そして交換レンズ群も一斉に値上げされ、さらにラインナップが縮小されて、最終的には2003年のOMシステム終焉となったわけだ。

噂によるとE-7の開発もあるとかないとかいう話だが、仮にあるとしてもOM-Dに導入された新技術を流用したマイナーチェンジ版になる可能性が濃厚だろう。要するにできるだけ開発コストをかけず、フォーサーズもやってますよというパフォーマンスに過ぎないのだろうと思う。E-30後継のような中級機が出てくるなら話は別だが、とても手が届かないようなフラッグシップ1機種だけのラインナップというのはシステムとして健全ではない。ニコンが(形だけ)F6を残しているのと同じようなものである。いずれはかつてのOM末期のように交換レンズが値上げされたり、ラインナップが縮小されるのは時間の問題だろうと考えている。

そうなるとフォーサーズユーザーにとって悩ましいのは、今のシステムを使い続けるか、それとも他社に乗り換えてしまうかという二者択一を迫られることである。フォーサーズユーザーはカメラに対してかなり知識のある人が多く、もともとフォーサーズの思想に惹かれて導入した人たちであるから、できることならフォーサーズを使い続けたいと考えるのは誰しも偽らざる気持ちである。しかし今のフォーサーズの置かれた状況を考えると、これ以上フォーサーズに投資するのはさらに深みに足を突っ込むことになるという危惧が投資にブレーキをかけるのである。自分が現在所有しているフォーサーズの交換レンズは、キットに付属してきた14-42mmF3.5-5.6と40-150mmF4-5.6、35mmF3.5マクロ、それにシグマの10-20mmF4-5.6の4本のみである。いずれも安いものばかりだ。実際、これでほとんど不自由はしていないのだが、評判の高い14-54mmF2.8-3.5など、欲しいと思うレンズはいくつかある。しかし、今のフォーサーズの状況を考えると、どうしても高価なレンズの購入には二の足を踏んでしまう。もちろん、たとえフォーサーズが終了しようとも、今あるレンズが使えなくなってしまうわけではないのだが、やはりシステムとして終了してしまえばいずれ寿命を終えるときが来る。デジタルの場合、フィルムと違って新しいボディーが供給されなくなると永続的に使用することは難しい。先に述べたように、発売後5年くらいで陳腐化とともに寿命を迎えてしまうのだ。ボディーは消耗品であって、新陳代謝のないシステムは死んだも同然なのである。

一方でマイクロフォーサーズといえば、現在絶好調である。E-P1が出た当時は望遠ズームさえフォーサーズ版を流用する有様で、海のものとも山のものとも知れなかったが、今やオリンパスはもちろん、パナソニックからも続々と魅力的なレンズがリリースされている。最近ではシグマやトキナーなどのサードパーティーの参入も記憶に新しい。マイクロフォーサーズユーザーはそれらの豊富な選択肢から好みのレンズを選べるという恩恵に浴している。旧来のフォーサーズユーザーはそれを恨めしそうに指をくわえて眺めているしかないのである。実に悩ましい。最近はソニーをはじめ、キヤノンのミラーレス参入もあったから、マイクロフォーサーズとて安泰とは言ってられないのだろうが、それでも先行のメリットは十分にあり、センサーサイズの点でもちょうど良い落としどころに収まっているように思う。

フォーサーズユーザーがマイクロに行かず、あくまでもフォーサーズにこだわる理由、それは光学ファインダーであろう。オリンパスはエントリーユーザー向けはPENシリーズでと言っているが、あの液晶ファインダーで撮るスタイルはどうも好きになれない。EVFにしても、やはり液晶は液晶、光学ファインダーで見るのとリアル感がまったく違う。レンズの収差をデジタル的に補正するのも好きではないし、本来のフォーサーズの思想を具現化したものは元祖フォーサーズでしかないと思っている。それがなかなかマイクロフォーサーズにも移行できない理由だ。

そういうことで、現在フォーサーズなき後の「次のシステム」に向けてあれこれ考え始めている。具体的な話は次の記事でしたいと思う。