シグマのSD1が約50万円もの値下げで大いに話題を呼んだが、今度はコンパクトタイプのDP2 Merrillが登場である。前のDP2Xから興味は持っていたのだが、今度は画素数が普通のデジカメ並に引き上げられて、その画質に注目していた。そしてサンプル画像を見て、あまりの解像力の凄さに度肝を抜かれた。今までのデジカメは何だったのか?と思えるくらいのインパクトだ。
SD1のときはそれほど凄いとは感じなかったのだが、DP2 Merrillは本当に凄いと思った。シグマの公式サイトにあるサンプル画像はイマイチな感じがするが(^^;、デジカメWatchのレビューにあるサンプル画像は確かに凄い。たぶんレンズが固定式で専用設計だから、その分のアドバンテージがあるのだろう。ピクセル等倍で見ても、1ピクセル単位で像が分離している感じがする。
他の一般的なベイヤー配列式センサーのカメラだとこうはいかない。いくら画素が多くても、等倍で見ると必ずモヤモヤした描写になる。たとえば3600万画素を誇るニコンのD800のサンプル画像を見ると、確かに画像全体での情報量は多いのだろうが、ピクセル等倍で見るとモヤモヤした印象は拭えない。並のデジカメと同じで、大したことないなという印象である。DP2 Merrillのように1ピクセル単位で解像するようなことは絶対にあり得ない。感覚的に言えば、ピクセルの色が「混じる」のである。それは画素補間によって色情報を生成しているベイヤー配列の原理から考えると当然で、本来はないはずの画素を計算によって「推定」しているのだから、そのようになるのは避けようがない。一方、シグマのFOVEONセンサーの場合は1ピクセルでRGBすべての情報を持っているため、周囲のピクセルの影響を受けることはない。だから1ピクセル単位で像が分離するような「切れの良さ」が得られるのだ。
FOVEONセンサーというのはかなり昔からあって、僕はそれこそが理想的なデジカメのセンサーであると考えてきた。それはフィルムと同じ3層構造を持っているからである。つまりデジタルカメラが完全にフィルムに追いつくためには、ベイヤー配列式センサーでは不完全で、3層センサーになって初めて追いついたと言えると信じてきた。事実、デジタルカメラで撮影した画像はフィルムに比べて細部の解像感が甘い。人物のポートレートや花の接写など、グラデーションの滑らかな被写体では目立たないが、遠景の樹木などを撮るとてきめんに甘さが露呈する。像がモヤモヤして溶けたような描写になってしまうのだ。この問題が解決されない限り、フィルムを追い越したなどとは言えないと思う。
今回DP2XからDP2 Merrillになって実質的な画素数が460万画素から1470万画素に引き上げられ、ようやく実用の域に達したとの感がある。3層センサーでこのくらいの画素数があれば35mmフィルムを代替するには十分であろう。それならばFOVEONセンサーが世の中の主流になっても良さそうなものだが、現実にはそうなっていない。むしろ特殊な存在だ。それはなぜか?
一つには高感度特性の弱さがあると思う。昔からFOVEONセンサーは高感度に弱いとされていて、DP2XではISO400が限界と言われていた。DP2 Merrillでは少しマシになったと言われているが、それでもせいぜい1段分だろう。他のデジタル一眼レフがISO12800やISO25600を謳っているのに対して、あまりにも差がありすぎる。最近のデジカメはやたらと高感度ばかりを売り物にするようになった。暗所では高感度でないと撮れないように錯覚されているが、ちゃんと三脚を立てれば低感度でもよりきれいな画像が撮れるのである。最近のカメラマンは横着になったのか、写真は手持ちで撮るものと考えている。だから高感度なカメラがもてはやされる。メーカーもそれを知っているから、高感度じゃないと売れないと考える。これじゃ積極的にFOVEONを採用するはずがない。
またFOVEONの問題点として、垂直方向に積み重ねた立体構造であるがために、RGBの色ごとに感度のムラが生じやすいとされている。つまり深い部分にあるセンサーほど光が届きにくいため、特に低光量下ではカラーバランスが崩れて色が変になりやすいという問題がある。確かにFOVEONのセンサーで撮られた画像はどこか色が変な印象があり、これからの解決課題だろうと思う。
そして決定的な要因は、画素数の少なさだろうと思う。DP2Xではスペック上1400万画素となっているが、それは3層合わせてのことだから、実質的な画素数は460万画素に過ぎない。これは10年近く前のデジカメのレベルである。実はDP2Xは価格が手頃だったこともあり、僕も購入を検討したことはあるのだが、結局は見送った。それは画素数の少なさが主な原因だ。確かに1ピクセル単位で解像しているから、等倍で見たときの解像感は非常に高いのだが、よく考えてみるとこんな推論が成り立つのではないだろうか。つまり、ベイヤー配列式センサーは隣接するRGBGの4ピクセルを使って色補間を行っているので、4倍の画素数を持つセンサーの画像を1/4に縮小すれば結局同じではないか?とういことだ。たぶん同じことを考える人はたくさんいると思う。自分もその一人だ。たとえば、2000万画素のデジカメの画像を500万画素まで縮小すれば、理論的にはDP2Xと同じ解像感が得られるはずと考えるのだ。そう考えるとFOVEONセンサーが意味のないものに思えてきて、DP2Xを購入する気分は萎えてくる。何と言ってもFOVEONセンサーというただ一点を除いては、カメラとしての完成度はお世辞にも高いとは言えないからだ。
DP2 Merrillで実質的な画素数が1470万画素になったことにより、ようやく他のデジカメに肩を並べられるレベルになった。とは言っても、最近では2000万画素超も当たり前になってきたから特別インパクトのある数字ではない。もちろん1ピクセル単位で解像しているのだから数倍の解像感があるのだが、一般の人にそういう理屈を言ってもなかなか理解してもらえない。1470万画素より2400万画素の方がいいと思うのは当然だろう。したがって、メーカーはやはりスペック上の画素数を上げようと躍起になる。一時は落ち着いていた画素数競争も、最近になってまた過熱してきた。3200万画素はもちろん、2400万画素でもいったい何に使うのだろうか? 自分は1200万画素もあれば十分である。それ以上あっても容量の無駄になるだけだ。これ以上の画素数競争はやめてもらいたいものである。
まったく無意味な画素数競争ではあるが、高画素化の意味が一つだけあるとすれば、それは画素混合によるフルカラー化ではないだろうか? つまり、RGBGで構成される2×2の4ピクセルを一つの画素と考えれば、平板センサーであっても補間することなしにすべての色を表現することが可能となる。もちろん実質的な画素数は1/4になってしまうが、FOVEONセンサーと同じく1ピクセル単位での解像が可能なはずである。だいぶ昔の話になるが、ニコンのD1はわずか260万画素しかなかったが、実際には4倍の画素数があって、4ピクセル単位で画素混合を行っていたと聞いている。それは技術的には難しくないはずで、今の技術でも十分実現可能だろう。そうすることによって、FOVEONセンサー特有の問題からも解放される。たとえば実質的に1200万画素を実現するためには、4800万画素センサーを開発すればよいことになる。今3600万画素まで来ているのだから、たぶんそれは時間の問題で実現されるだろう。そこまで高画素化しても、もはやレンズの解像力の方が追いついて来られないと思われるので、むしろ画素混合によりピクセル単位のフルカラー化の方へ持っていってもらいたいものである。それが正常な進化というものだ。しかし、見かけの画素数が1200万画素とか言えば、やっぱり売れないんだろうな。そういうカメラがあったら絶対買いたいが、メーカーは絶対作らないと思う。高画素イコール高画質という思考停止はもはやどうしようもない。
こういう話をすると、FOVEONセンサーを否定しているようだが、自分はSIGMA製品を愛用しているし、応援もしている。やはり撮像素子の理想は3層センサーであることには違いない。しかし今のFOVEONセンサーはまだ完成の域に達していないと思うのだ。一般的なベイヤー配列式センサーに比べて解決すべき問題がまだまだ多すぎる。今の価格と性能では手が出るところまでは行かない。何より自分はコストパフォーマンスが第一だから、値段の割に低機能なシグマのカメラには食指が動かない。ちなみにDP2 Merrillの現在の実販価格は9万円弱だ。自分にはとても手が出ない。そこまで出すなら迷わずOM-Dを買うだろう(笑)。いやD7000でもいいぞ。