手ぶれ補正は必要か?

投稿日:2016年1月17日 更新日:

デジタルカメラ

電子水準器が人間を堕落させることはこの前書いたばかりだが、もっと古くから存在しているものが手ぶれ補正だ。デジタル一眼レフが普及するよりも前、コンデジ全盛期には「ブレない」をキャッチフレーズに各社が競って導入した。自分は三脚大嫌い人間だから、これで三脚なしで撮れると手放しで喜んだものだ。

しかし、その頃からシャッタースピードを意識しなくなった。手ぶれ補正があるから気にしなくても大丈夫と安心しきってしまうんだ。本当は大丈夫じゃないんだけど、精神安定剤みたいなものだから感覚が麻痺して大丈夫な気になってしまう。その結果、1/8秒なんてスローシャッターになってても気づかずにブレ写真を量産することになった。手ぶれ補正のおかげでかえってブレが増えた。これを堕落と呼ばずして何と言おうか?

思えばフィルム時代はシャッタースピードを気にしないなんてことはあり得なかった。シャッターを切る前に必ずシャッタースピードを確認するのが習慣だった。一枚一枚カネがかかってるんだから当たり前である。ブレない限界のシャッタースピードはおよそ焦点距離分の1と言われているから、28-70mmのズームを使っているときなら1/60秒が一つの基準となる。広角側なら1/30秒までは粘れる。ISO100のフィルムを使っている場合、晴天日中の基準露出は絞りf8・1/250秒となるが、曇っているとシャッタースピードが2段くらい落ちるので、f8・1/60秒で何とか手持ち可能となる。それ以上暗いと今度は絞りを開けるしかなくなるので、ギリギリ1/60秒を維持できるところまで絞りを開く。自分はできるだけ絞りたい派だから、開放で使うことはめったにない。ブレない限界まで絞るんだ。だからシャッタースピードは嫌でも気にせざるを得ない。

それでも夕方だったり、林の中だったりすると1/30秒を下回ることも多い。ISO100のフィルムで頑張るのは相当辛いんだ。そういう時はダメモトで1/15秒や1/8秒を切ったりする。でも壁に寄りかかるなどして安定させれば意外とブレないものなんだ。とにかくフィルム時代は常にシャッタースピードを意識して、いかにブレを防ぐかを工夫しながら撮る習慣が身に付いていた。

しかしデジタル時代になってからどうか? フィルムの場合は途中でISO感度を変えられないけれども、デジタルなら一枚ずつ変えられちゃう。しかもISOオートで勝手に上げてくれるんだから、暗くなったら上げようなんてことも考えずに済むんだ。さすがに旧フォーサーズのような高感度に弱いカメラだと最低感度固定で撮りたくなるが、今どきのカメラはISO1600くらいに上げても全然平気なので、オートに任せきりである。その結果、ISO感度さえ意識しなくなった。一応シャッターボタンを半押しするとISO感度が表示されるはずだけど、そんなの見たこともない。おまけに手ぶれ補正があるからシャッタースピードも確認したことがない。ISOオートと手ぶれ補正の相乗効果で絶対ブレないと信じ込んでしまっているんだ。その結果、勝手にISO3200に上がっていても気づかず、後で「しまった」と思うことになる。またシャッタースピードが1/15秒以下になっていても気づかずにブレ写真を量産する。これはもう超堕落でしかない。手ぶれ補正とISOオート、それに電子水準器は人間を堕落させる三大悪である。

この際ISOオートは置いておくとして、手ぶれ補正ってそんなに信用に足るものか? カタログには3~4段分くらいの補正効果と書かれていても、感覚的には1段分くらい、良くても2段分程度の効果しかない気がする。それも確率の問題だから、絶対ブレないというわけじゃない。ブレ率が何割か減るというだけの話である。逆にそれに頼りすぎていい加減なホールディングをしていたらかえってブレを量産しても不思議ではない。しかも厄介なことは、オリンパスの一部のカメラに見られたように、手ぶれ補正の誤動作でかえってブレを誘発してしまう危険性さえあるということだ。こうなるともう手ぶれ補正なんかに頼らず、しっかりシャッタースピードを確認し、ホールディングを安定させるという基本中の基本の動作が最も確実にブレを減らせると言って間違いではない。

昨今のカメラのように手ぶれ補正が当たり前になっちゃうと、それがないと撮れないような錯覚に陥ってしまうことが怖いんだ。それはボディー内手ぶれ補正を好む理由と関係するんだけど、たとえばオリンパスとパナソニックなら、ボディー内手ぶれ補正のないパナソニックはどうしても敬遠したくなる。手ぶれ補正の付いていない広角系レンズで撮れないじゃないかと錯覚してしまうんだ。でも実際は撮れないなんてことは絶対あり得ない。ちゃんとシャッタースピードを確認してカメラをしっかり保持すればブレることはない。メーカーもそれがわかってるから付けないんだろう。望遠系だって絶対撮れないわけじゃなくて、ちゃんとブレないシャッタースピード(およそ1/250秒以上)を維持すればめったにブレることはない。しかもマイクロフォーサーズはISO200が基準感度だから、昼間なら1/500秒は余裕で切れるんだ。これでブレたらよっぽど下手といえる。

昔D7000を使っていたときも手ぶれ補正の付いたレンズが一本もなかったけど、別に全然気にならなかった。当然シャッタースピードを意識するようになるから、ブレ写真なんてまったくなかった。結局、手ぶれ補正なんて初めからなければ気にもならないものなんだ。だから、手ぶれ補正がないと撮れないような錯覚を抱いたり、ボディー内手ぶれ補正の有無でカメラを選ぶことは間違っていると思うんだ。あって当たり前と思うこと自体がすでに堕落である。

今のデジタルカメラは露出はオート、ISO感度もオート、そして手ぶれ補正もあって、何も考えずにシャッターを押しただけでキレイに撮れちゃう。だから今シャッタースピードがいくらでISO感度がいくらなんてこともまったく意識せずに撮っている。でもそれで楽しいか? それじゃただの「作業」に過ぎないと思うんだ。確かに作業ならなるべく手間をかけずに早くできる方が良い。しかし効率だけを追い求めるのは仕事であって、もはや趣味ではない。趣味で写真を撮るなら一枚一枚を「創作」する気持ちがなければならない。別にマニュアルで撮れとまでは言わないが、せめてISO感度やシャッタースピードを確認するのは当たり前である。それさえ気にしなくなったらもう写真なんてスマホで撮っておけば良い。最近、写真がつまらなくなったのはそういうことなんだ。一枚一枚、入念に露出を決定してシャッターを押していたフィルム時代を思い出せ!

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