写真論

アサヒカメラ休刊とオリンパス身売りに思う

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この6月に飛び込んできた写真界をめぐる二大ビッグニュース。それは言うまでもなくアサヒカメラの休刊とオリンパスの映像事業売却の件である。カメラ業界を取り巻く昨今の状況を鑑みるといずれそういう日が来るとは思っていたが、それは思っていたよりもずっと早く到来した。

思えば昨年の暮れ、自分の写真趣味終了とカメラ業界の衰退を引っかけて「カメラは終了」という記事を書いていた。奇しくもその中の予言が予想をはるかに上回るスピードと規模で現実になったのである。

一つだけ違ったのは、東京五輪終了後に大不況がやってくるという予想だ。それは半年以上も早く、年明け早々にやってきた。しかも五輪そのものがなくなっちゃった。誰がここまでの惨状を予測できただろうか? 表向きは延期と言っているが、これは誰がどう考えても中止されるであろう。今や世界は百年に一度と言われる大恐慌に見舞われている。もはやリーマンショックどころの騒ぎじゃない。このダメージから立ち直るには少なくとも5年以上はかかることが確実だ。

そんな中で飛び込んできた二大ニュース。これらの意味するところは写真文化の衰退とカメラ産業の終焉である。これらはもちろん別々ではなくリンクしている。もともと弱り切っていたところにとどめを刺したのがコロナ禍といえる。なぜならカメラは「不要不急」だからだ。人が生きるのにカメラは必要ない。ましてや写真を撮るには外に出なければならない。旅行の機会も激減する中で写真界にとっては大逆風だ。しかし、たとえコロナ禍がなかったとしてもこの流れは避けられなかっただろう。

写真文化ならびにカメラ業界の将来を考えるに、明るい材料は一つもない。もはや衰退か終焉の道しか残されていない。なぜこうなってしまったのか? そしてこれからの写真界について予測してみたい。

まずはアサヒカメラ。表向きは休刊となっているが、これは事実上の廃刊であることは出版界の常識。これまでに復刊した例を知らない。まあもともと出版業界自体が恒常的に不況だからなるべくしてなったと言えるが、そこへコロナ禍が直撃してスポンサーが激減したことが直接の原因になったようだ。自分も最近まったく買ったことがないが、内容が薄っぺらくて全く買う気になれない。

デジタル時代になって誌面の多くを占めるようになったのが機材のレビュー記事。もちろんスポンサーの手前、批判的な記事なんか書けるわけがない。判で押したような提灯記事を毎回見せられても全くつまらない。今の時代、ネット上には忖度抜きで書かれた良質なレビュー記事が溢れている。自分はそういうものしか信用しない。今どき誌面で機材レビューをやることなど時代錯誤もいいところだろう。メーカーの新製品発表って、必ずアサヒカメラの発売日とタイミングを合わせてるでしょ? つまりメーカーと出版社は切っても切れない関係にあるってこと。広告収入に依存した雑誌発行という旧来のスタイルはもう限界に来ていると思う。

昔からアサヒカメラの看板ページと言えば巻頭グラビアと月例コンテスト。巻頭グラビアは新人作家の発表の場であったし、月例の常連になることが写真家への登竜門であった。まさにアサヒカメラは長年にわたり日本の写真文化の一翼を担ってきたのである。インターネットというものがなかった時代、写真を発表するには写真展を開催するかこの手の雑誌に掲載されるしか方法がなかった。コンテストに入賞し、自分の写真が誌面に載るということはステータスであったのだ。

ところが今は写真趣味のあり方自体が大きく変わってしまった。もはや写真は紙にプリントして楽しむものではなく、SNSでシェアして楽しむものに変わった。そこでは誰もが写真を世界に向けて発信することができ、即座に反応が得られるようになった。今やコンテストに入賞という古くさい価値観より、SNSにおける「いいね」やリツイートの数がステータスとして価値を持つようになった。コンテストなんてしょせん審査員の好みに合った写真しか評価されないが、「いいね」は万人が認めたもの。多くの「いいね」が付けば瞬く間に世界に拡散されていく。その影響力は写真雑誌なんてちっぽけな世界をはるかに超えている。こうして人々は「インスタ映え」する写真を求めてしのぎを削っているのである。いつまでも旧態依然としたコンテストばかりやっている写真雑誌が飽きられるのは当然の成り行きだろう。

そしてデジタル化によって写真を取り巻く経済構造が大きく変わったことも一因だろう。フィルムの時代は写真を中心として幅広い分野に利益を生み出す構造が成り立っていたのである。その中核にいるのはカメラメーカーかもしれないが、最も重要な地位を占めるのはフィルムメーカーである。何と言ってもフィルムは写真を撮るのに絶対不可欠な消耗品であるから、人々が写真を撮れば撮るほどフィルムメーカーには大きな利益が生まれ、需要が途切れることはない。もちろん現像・プリントを行う写真店にも安定的な利益が発生する。昔は薬局やスーパーでもDPEの取次を行っていたことを覚えている人も多いだろう。DPEというのはお客様が必ず二度足を運んでくれるありがたいビジネスなのである。一見、写真と関係ない店であっても、DPEを頼んだついでに他の買い物をしてくれたりするからその店も潤う。このようにフィルム時代は写真を中心として幅広い分野に経済が回るシステムが成り立っていたのである。もちろんその中には写真雑誌を手がける出版社も含まれる。

ところがデジタルの時代になって、フィルムが要らなくなり、誰も写真店に足を運ばなくなった。フィルムメーカーは撤退し、町の写真店は潰れた。今や写真を撮っても誰も儲からないのである。それじゃカメラメーカーだけは儲かっているのかと言うとそうでもない。今ではスマホに奪われてカメラが全く売れない。もはやカメラメーカー自身もカメラではやっていけなくなっている。こうして今の時代は写真を撮っても誰も儲からなくなってしまったのである。その経済的損失たるや凄まじいものだろう。デジタルのせいで一つの産業が吹っ飛んだに等しい。儲からないからスポンサーも減る。だから写真雑誌の継続が困難になってしまう。

今ある写真雑誌の全てが同じ問題を抱えているに違いない。月刊カメラマンも休刊してしまったし、今残っているのと言えば日本カメラとCAPAくらいだろうか? しかしこれらも早かれ遅かれ同じ運命をたどることは想像に難くない。

次にオリンパスのカメラ事業譲渡について。2年ほど前、フルサイズミラーレスがブームになったときにオリンパスは動かなかったから何となくそんな予感はあったのだが、やっぱりかという印象である。さすがは裏切りのオリンパス(笑)。譲渡後もOM-DやPEN、ZUIKOといった名称は残ることになっているが、OLYMPUSというブランドは会社名であるからこれは消えることになる。個人的にOLYMPUSのロゴがないカメラは買いたくない。m4/3システムの継続については変わりないとしているが、もう一つの柱であるパナが最近はフルサイズに行っちゃってるから、m4/3はあまりやる気がなさそうだ。いずれm4/3陣営そのものが空中分解してしまう危険を孕んでおり、楽観視はできない。何しろオリンパスの言うことだから信用しちゃいけない(笑)。

いずれはこういう動きが出てくるだろうと予想はしていたが、オリンパスが一番乗りになったことについては納得できる理由がある。カメラメーカーの中で唯一フルサイズシステムを持たないのがオリンパス。m4/3を中心とした小型システムが得意で、主にライトユーザーをメインターゲットにしている。つまりスマホでは満足できないけれども、でかい一眼レフは嫌という層が大きなウェイトを占めているわけだ。

スマホが普及し始めた2010年頃から、家族や旅行の写真を撮るようなファミリー層、つまり従来はコンデジを使っていた層が真っ先にスマホに流れた。これらの層は全ての写真ユーザーの中で最も大きなボリュームを占めるが、それがごっそり抜けてしまったのである。後に残ったのは趣味として写真を楽しむ層だ。こういった層はスマホでは満足できないから、一眼レフやミラーレスの需要がなくなることはないと思われていた。ところがごく近年、大きな異変が起こった。スマホのカメラが飛躍的に進化したのである。初期のスマホはカメラ性能が悪く、しょせんオマケ程度のものでしかなかったから、スマホで写真を撮ろうなんて気にはなれなかった。ところが今のスマホは凄い。複数のカメラを搭載して超広角撮影ができたり、深度合成ができたり、中には光学ズームを搭載したものまである。ソフトウェア的にも非常に進化しており、AIを搭載して自動的にシーンを認識し、見栄えがするように調整してくれたりする。誰でも簡単にSNS映えする写真が撮れてしまうわけだ。

自分も最近スマホを買い換えたのだが、カメラの性能に驚いてしまった。少なくともコンデジのレベルは完全に超えている。かつては撮影が困難であった明暗差の激しいシーンでも自動的にHDRが効くので、すごく自然な感じに撮れる。もちろん等倍レベルで見れば一眼レフやミラーレスには敵わないのだが、どうせSNSにアップするのが目的ならそんなのは関係ない。それより見た目に美しくインパクトのある写真を撮れる方がSNSでの受けは良い。だから自分も最近はスマホで撮ることが多くなった。だってその方が綺麗なんだから。

初めにも言った通り、今や写真はプリントして楽しむものではなく、SNSにシェアして楽しむ時代である。そこでは等倍レベルでの画質というものは大した意味を持たない。いつでも持ち歩けて、見栄えのする映像をクリエイトできて、そして撮って素早くSNSにアップできるスピード感が求められる。そういう目的にはスマホがピッタリなんだよ。最近のミラーレスはスマホと連携できるのが当たり前だけど、WiFiで転送してSNSにアップなんてのはすごくめんどくさくてやってられないんだ。人は必ず楽な方に流れる。SNSとの親和性の高さではスマホに敵うものはない。

そうなると趣味として写真を楽しむ層も一斉にスマホに流れ始める。こういった層の中でも圧倒的に多いのは、風景やスナップを撮る一般的な写真愛好家だろう。従来はでかい一眼レフを嫌ってミラーレスを愛用していたこれらの層が「スマホで十分じゃね?」と気づき始めたのだ。自分もそうだが、写真の使用目的はほぼSNSだから画質なんてどうでもいい。写真趣味人口の中でも大半を占めるスナップ派がごっそりスマホに流れてしまうと、もはやカメラを使う人間はほとんど残らなくなる。それで一番割を食ったのがオリンパスであることは疑いようがないだろう。小型軽量なm4/3はスナップ派に最も適したシステムであったが、それしか持たなかったことが徒となった。

スナップ派の需要がスマホに食われてしまうと、これからのカメラ需要は大きく二つしか残らないと思う。一つは写真を生業としている職業カメラマン、そしてもう一つはカメラを買うことだけが目的の層だ。後者が意味するところは、これといった写真は撮らないんだけれども、カメラやレンズを次々と買って描写を試すことに生きがいを感じている人種だ。自分はこういうのを「カメラテスター」と呼んでいる(笑)。そんなことをして何の意味があるのかわからないけど、今のカメラユーザーの中で一番多いのはこれじゃないかと思っている。そしてメーカーにとって最も大事なお客様になるのもカメラテスターだろう。何しろこれらの層は金に糸目は付けないのだから。

これからの時代、一眼レフやミラーレスのようなシステムカメラを購入する層は目的が極めて限られてくると思う。たとえばスポーツ、ポートレート、鳥、鉄道、天体などスマホでは代替が効かない特殊な分野だ。そういった目的のためにシステムカメラは細々と生き残る。しかし需要が減るから価格も跳ね上がり、一般ユーザーがとても手の届かないものになる。かつてのオーディオがそうであったように、一部のマニアのためだけにカメラが存続し、他のユーザーは全てスマホに移行する時代が来るだろう。

まあカメラ業界はどう考えたって明るい材料は一つもなく、斜陽産業であることは間違いない。まさに座して死を待つような状態だろう。カメラメーカーの中でオリンパスの次に危ないのはニコンじゃないかと思っている。なぜなら事業構造がオリンパスと似通っているからだ。ニコンもやはり分社化された映像部門の業績が悪く、全社の足を引っ張っている。オリンパスと同じように映像部門を切り捨てて業績回復を図ろうとする動きが出てきてもおかしくない。これからの二大メーカーはキヤノンとソニーになっていくことは間違いないだろうが、それとても安泰とは言えない。APS-Cを中心とした小型システムはスマホに食われていくから、やはりフルサイズ中心にラインナップを縮小して行かざるを得ないと思う。

そしていつ潰れてもおかしくないのがペンタックス(笑)。でもしぶとく生き残っているし、今秋にはAPS-Cのフラッグシップ機を出すとも噂されている。本当にそんな余裕があるのか? 自分はまだ疑っているのだが(笑)、もしかしたらリコーにはペンタックスを手放したくない特別な事情があるのかもしれないな。リコーにとってカメラは一般コンシューマーとの唯一の接点だから、企業イメージ育成のためにペンタックスを手元に置いておきたい狙いがあるんじゃないだろうか? 我が道を行くならそれで行ってくれ!(笑)

アサヒカメラ休刊とオリンパス撤退という写真の未来を占う象徴的なニュース。2020年は写真界にとってのターニングポイントだったと後に記憶されるに違いない。

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