尾仲浩二展を観てきた

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1月18日~4月5日まで奈良市写真美術館にて「尾仲浩二展」が開催されているので早速観に行ってきた。東京には氏の常設ギャラリーがあるのだが、関西ではなかなか目に触れる機会がないので貴重な展示だと思う。

奈良市写真美術館公式サイト

尾仲氏と言えば旅写真、といっても観光的な写真ではなく、どこにでもありそうな地方の風景を流れるように切り取った作風で知られる。よくある都市のスナップではなく、人が登場することは少ない。一見とりとめがないように思えるが、見れば見るほど強烈な郷愁に引き込まれていく不思議な魅力を持っている。そんな作風に惹かれてどんな風景写真家よりも最も好きな写真家になった。これまで「GRASSHOPPER」「DRAGONFLY」「夏をあつめて」という3つの写真集も所有している。

今回の写真展では、1983年に撮られた「直方1983」、1991年に撮られた「海町」、1989~1999年に撮られた「Faraway Boat」、1992~1996年に撮られた「Slow Boat」、2001~2013年に撮られた「Short Trip Again」、2015~2019年に撮られた「また旅」からの抜粋となっている。このうち20世紀に撮られたものはすべてモノクロ作品、21世紀に撮られたものはすべてカラー作品となっている。

最近の写真展ではインクジェットによるプリントが多くなったが、今回はすべてがネガフィルムからの銀塩プリントとなっている。いくつか写真集で見たことがある作品もあったが、やはり本物のプリントを直に見るのは味わい深い。

氏の作品には一貫した主張がある。きらびやかな都会が日本の表の顔だとすれば、うらぶれた地方の誰も目に留めないような風景にスポットを当て、「日本のもう一つの顔」を露わにする。それは地方都市の駅前だったり、商店街だったり、酒場街だったり、住宅街だったり、漁港だったり、何でもない農村の風景だったりするのだが、かつて多くの日本人が日常的に見慣れてきた風景なのである。もしかすると都会よりもこちらこそが「日本の本当の顔」なのかもしれない。もちろん当のご本人は「いつどこで撮ったかはそれほど大切ではない、なぜ撮ったかなどどうでもいいことだ」と言っているように、恣意的にノスタルジーを追求して撮っているのではなく、それこそ時を流れるように漂った結果がこれらの作品なのだろう。

モノクロ作品は20世紀に撮られたものだから郷愁を感じるのは当然と言えるが、むしろカラー作品の方により強い郷愁を感じる。これらの作品は昭和の時代に撮られたものではなく、すべて21世紀に撮られたものなのだ。しかしそれが昭和の時代にタイムスリップしたような錯覚を覚える。そのように感じる理由の一つには「尾仲調」とも評される独特のウォームトーンがあると思う。氏の作品の多くに登場する、夕焼けだったり、赤錆びた鉄だったり、枯れ草だったり、土だったりするのだが、それらが醸し出す「赤茶けた風景」という印象を強く受ける。もちろんカラーネガ特有の発色も相まってより暖色が際立っているのだろう。この味わいはデジタルでは出せないものだと思う。そのため冷たいはずの雪景色であってもなぜか暖かみを感じてしまうのだ。変な比喩かもしれないが、シュールレアリズムの画家デ・キリコの絵画にも通じるものがあると思っている。

これらの作品に郷愁を覚えるのは、もちろん多くの日本人が見てきた風景だからだ。しかしその忘れられた風景達が今も日本の其処此処にひっそりと息づいている。それを持ち帰って不意に見せられたとき人はハッとするのである。見慣れた風景のはずなのに、なぜか異次元に誘い込まれるような錯覚を覚える。それが氏の作品の魅力なのだと思う。

尾仲氏と言えばニコンF3に35mmF2という組み合わせでほとんどの写真を撮っていることで有名である。旅もほとんど身一つでぶらっと出かける究極のミニマリスト。自分もF3ユーザーだったから同じスタイルで真似したことがある。でも当然ながらというか、氏のような作品は撮れないんだ(笑)。あれは誰でも撮れそうでいてなかなか撮れるもんじゃない。やっぱり「撮ってやろう」という気持ちがあると絶対撮れない。それこそ流れるように、頭ではなく体が先に反応しなきゃダメなんだろうと思う。旅写真って簡単なようで難しい。

以下、パンフレットより作品目録(クリックで拡大)。

コメント

  1. ド素人志向 より:

    コロナ感染者微増な県内で幾坂池一本桜に日曜日の休みにNEX-6&KS-2&S9700と7日の仕事中S9700の2回出撃してきました💦

    本日は尼でP340中古届いたのは秘密です(爆)

  2. 型落ちハンター より:

    >ド素人志向さん

    あそこはもう終わった感が・・
    E-M10mk2でサクッと撮って終わりでした(笑)。

    WiFi内蔵ハイエンドコンデジが欲しいっす(爆)。

  3. あつみ より:

    こんにちは
    はじめまして。私は九州にすむ者です
    2016年に和歌山本宮町久保野分校のブログ拝見致しました。

    ありがとうございます。私の祖母と母がそこの卒業生です。祖母は大正15年うまれ、2018年に92才で他界してます。なので、久保野分校は昭和7年ごろにはあった模様です。祖母、母はくりがいとから歩いて通学していたそうです。

    母はとても興味深く見ていました。
    歩いて通学していたそうです。

    鳥居の横の広場で村の
    餅投げもしていたそうです。
    母の同級生は、母も合わせてふたり
    ひとつうえの学年は7人ほどいたそうです。
    とても興味深く拝見しました

    ありがとうございました

  4. あつみ より:

    因みに、私の母の弟、私からしたらおじが久保野分校の最後の卒業生です。

  5. 型落ちハンター より:

    >あつみ様

    はじめまして。コメントありがとうございます。
    えっ、まさか卒業生の方がおられたとはこちらこそ驚きです。
    これは奇跡に近いです。

    数ある廃校の中でもこれほどのインパクトはありませんでした。
    あんな山の中にどうやって通っていたのか、当時の様子を知る方と巡り会えるなんて、これもネット時代の恩恵でしょうか。
    本当にありがとうございました。

  6. あつみ より:

    お返事ありがとうございます。
    私は幼少の頃は九州から和歌山本宮町久保野の祖父母の家をおとずれていました。いまから20年前でしょうか、その時は祖父母は五右衛門風呂をわかし、山で薪をとり、スーパーないので、野菜はほぼ畑で自給自足です。週一度トラックでお店やさんがきて、魚や卵を買っていました。
    お盆には石塚よそえもんさんという、方のお墓に必ず参りにいってました。石塚よそえもんさんは、本宮町久保野の村を開いた人だと聞いてますが墓石には、母いわく、生年月日不明とかかれているそうです。私も幼少の頃は石塚よそえもんさんのお墓に参っていました。山道を歩いて。本宮町久保野の村人も減ってきて祖父母も足腰が弱り山道を歩くのが辛いので、石塚よそえもんさんのお墓を山の中腹から下におろせないか、お坊さんを呼んでこころみたそうです。
    お坊さんが石塚よそえもんさんは墓石を動かすことを望んでいないと言ったそうなので、いまだに石塚よそえもんさんのお墓は山の中腹にあると思います。
    その後祖父は久保野の家で眠るようになくなりました。祖母は九州に呼び寄せて同居し、明日はもういないからね、と言った翌日になくなりました。

    母もとても感慨深く写真を見ていました。少し興奮していたようにも見えました。とても感謝しています。

  7. あつみ より:

    久保野分校について
    僻地校
    先生は当時鳥居の川はさんで向かい側から学校に通っていた。母が入学したときは、先生は三人。最後の卒業生、叔父の時は先生は一人。
    急勾配をおりたところに当時は一軒家があった
    へいじがわからも来ていた。
    ジャングルジム鉄棒ブランコはあった
    母は片道40ふん歩いて通っていた
    ブランコのおくの方にも昔は何件か家があった
    林業の人が当時はいた
    敷地内に降水量を計るものがあった
    母が入学したときは、授業はじまりのチャイムは、ガランガランと高学年の人が鐘をならして合図していた。
    久保野分校とかかれた貸し出し用の傘があったそれは紙にロウをぬったような、ビニール傘ではない傘。
    プールはない。ので、夏休みに一年に一回大川という川で皆で水遊びをする。

  8. 型落ちハンター より:

    >あつみ様

    貴重な情報ありがとうございます。
    こんな生の情報は日本中どこを探しても出てこないと思いますよ!
    せっかくですから本記事の方に転載させていただきました。

    子供の足だったら40分くらいかかるでしょうね。
    あれを毎日歩いたらさぞ足腰が鍛えられるでしょう(笑)。
    あんなところに民家があったとは驚きです。そういえば間違って入った道の方にも廃屋がいくつかありました。
    プールは当然ないですよね(笑)。昔は川で泳ぐのが普通でしたよね。古き良き日の光景が目に浮かびます。

  9. あつみ より:

    ありがとうございます

    因みに母の1学年したの卒業生の人が久保野分校を訪れようとしましたがそのひともたどり着けませんでした。学校の帰りに竹藪があってそこでタケノコが取れたそうです。そこで取れたタケノコを夕食にしていたそうです。

  10. 型落ちハンター より:

    >あつみ様

    卒業生でもたどり着けないなんてことがあるんですか(笑)。
    あの鳥居さえわかれば迷うような所はなかったと思いますけどね・・

  11. ほんとですよね より:

    話の主題はずれますが先生、富士フイルムの旧機種いかがですか?
    当方最近X-E2導入したのですが機材質量も操作性も十分で毎日持ち運んでます。このまま5年くらいいけちゃう感じです。
    スマートフォンと比較するとやはり全然違います。おまけにスマホより安い。たすき掛けも似合って最高。

  12. 型落ちハンター より:

    もうカメラは一切興味ないのでね・・
    m4/3機で十分なので今あるものだけを使います。