尾仲浩二展を観てきた

投稿日:2020年1月26日 更新日:

写真展

1月18日~4月5日まで奈良市写真美術館にて「尾仲浩二展」が開催されているので早速観に行ってきた。東京には氏の常設ギャラリーがあるのだが、関西ではなかなか目に触れる機会がないので貴重な展示だと思う。

奈良市写真美術館公式サイト

尾仲氏と言えば旅写真、といっても観光的な写真ではなく、どこにでもありそうな地方の風景を流れるように切り取った作風で知られる。よくある都市のスナップではなく、人が登場することは少ない。一見とりとめがないように思えるが、見れば見るほど強烈な郷愁に引き込まれていく不思議な魅力を持っている。そんな作風に惹かれてどんな風景写真家よりも最も好きな写真家になった。これまで「GRASSHOPPER」「DRAGONFLY」「夏をあつめて」という3つの写真集も所有している。

今回の写真展では、1983年に撮られた「直方1983」、1991年に撮られた「海町」、1989~1999年に撮られた「Faraway Boat」、1992~1996年に撮られた「Slow Boat」、2001~2013年に撮られた「Short Trip Again」、2015~2019年に撮られた「また旅」からの抜粋となっている。このうち20世紀に撮られたものはすべてモノクロ作品、21世紀に撮られたものはすべてカラー作品となっている。

最近の写真展ではインクジェットによるプリントが多くなったが、今回はすべてがネガフィルムからの銀塩プリントとなっている。いくつか写真集で見たことがある作品もあったが、やはり本物のプリントを直に見るのは味わい深い。

氏の作品には一貫した主張がある。きらびやかな都会が日本の表の顔だとすれば、うらぶれた地方の誰も目に留めないような風景にスポットを当て、「日本のもう一つの顔」を露わにする。それは地方都市の駅前だったり、商店街だったり、酒場街だったり、住宅街だったり、漁港だったり、何でもない農村の風景だったりするのだが、かつて多くの日本人が日常的に見慣れてきた風景なのである。もしかすると都会よりもこちらこそが「日本の本当の顔」なのかもしれない。もちろん当のご本人は「いつどこで撮ったかはそれほど大切ではない、なぜ撮ったかなどどうでもいいことだ」と言っているように、恣意的にノスタルジーを追求して撮っているのではなく、それこそ時を流れるように漂った結果がこれらの作品なのだろう。

モノクロ作品は20世紀に撮られたものだから郷愁を感じるのは当然と言えるが、むしろカラー作品の方により強い郷愁を感じる。これらの作品は昭和の時代に撮られたものではなく、すべて21世紀に撮られたものなのだ。しかしそれが昭和の時代にタイムスリップしたような錯覚を覚える。そのように感じる理由の一つには「尾仲調」とも評される独特のウォームトーンがあると思う。氏の作品の多くに登場する、夕焼けだったり、赤錆びた鉄だったり、枯れ草だったり、土だったりするのだが、それらが醸し出す「赤茶けた風景」という印象を強く受ける。もちろんカラーネガ特有の発色も相まってより暖色が際立っているのだろう。この味わいはデジタルでは出せないものだと思う。そのため冷たいはずの雪景色であってもなぜか暖かみを感じてしまうのだ。変な比喩かもしれないが、シュールレアリズムの画家デ・キリコの絵画にも通じるものがあると思っている。

これらの作品に郷愁を覚えるのは、もちろん多くの日本人が見てきた風景だからだ。しかしその忘れられた風景達が今も日本の其処此処にひっそりと息づいている。それを持ち帰って不意に見せられたとき人はハッとするのである。見慣れた風景のはずなのに、なぜか異次元に誘い込まれるような錯覚を覚える。それが氏の作品の魅力なのだと思う。

尾仲氏と言えばニコンF3に35mmF2という組み合わせでほとんどの写真を撮っていることで有名である。旅もほとんど身一つでぶらっと出かける究極のミニマリスト。自分もF3ユーザーだったから同じスタイルで真似したことがある。でも当然ながらというか、氏のような作品は撮れないんだ(笑)。あれは誰でも撮れそうでいてなかなか撮れるもんじゃない。やっぱり「撮ってやろう」という気持ちがあると絶対撮れない。それこそ流れるように、頭ではなく体が先に反応しなきゃダメなんだろうと思う。旅写真って簡単なようで難しい。

以下、パンフレットより作品目録(クリックで拡大)。

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