レンズは消耗品だ!

投稿日:2018年3月27日 更新日:

レンズ

フィルム時代、レンズは「資産」だという考え方が一般的であった。ボディーは精密機械だから酷使していれば故障することもあるが、レンズはほとんどが光学部品であり故障する部分が少ないからボディーに比べれば寿命は長い。カビやクモリさえ気をつけていれば一人の人間の一生くらいは十分に役割を果たす。実際、戦前のオールドレンズを手に入れて現役で使ってる方も多いだろう。同じマウントであればボディーを入れ替えてもレンズは後々まで使い回しが効くから、「資産」という考え方が成り立ったのである。そのためボディーはケチってもレンズには投資を惜しまないという考え方は間違いではなかった。

フィルムカメラでもAF一眼レフの時代になるとボディーのモデルチェンジも激しくなり、数年サイクルで買い換えることも珍しくなくなったが、依然としてレンズは資産だという考え方は根強くあった。そしてデジタルカメラの時代になると、ボディーなんてほぼ毎年のようにモデルチェンジが行われ、完全に「消耗品」になったことは誰もが知るところである。したがってボディーに高い金をかけてもどうせすぐ新製品が出て価値がなくなるのだから、ボディーなんて型落ちの安いので十分というのが自分の主張であった。しょせん5年でゴミになるデジタルカメラごときに大金をかけてはいけないのである。

それでもレンズはまだボディーに比べると製品寿命が長く、「資産」であるとする考え方は生き残っていた。少なくともデジタル一眼レフの初期の頃まではそうだ。いち早くデジタル一眼レフに参入したNikonはフィルム時代からのレンズ資産の継承が至上命題であったから、基本的にはフィルム時代と大きく構造の変わらないレンズが主流で使われていた。具体的に言えば、ボディー内モーター駆動によるAF、機械式の露出計連動機構、ボディー側からの絞り制御、絞りリングの存在などである。もちろんその時代からすでにレンズ内モーターは存在していたし、Dタイプレンズではマウントも一部電子化されて開放F値や合焦距離の情報が電子的に伝達されるようにはなっていたが、従来からの機械式レンズも使えるような配慮がなされていたのである。

ところがデジタル一眼レフが進化するにつれて従来型のレンズは姿を消し、新しいタイプのレンズと入れ替わった。ボディー側から駆動するタイプのAFは一掃され、すべてのレンズにモーターが内蔵されるようになった。また露出計の連動も完全に電子化された。現在D5600以下のエントリー機では旧タイプレンズとの互換性は捨てているため、モーターを内蔵しないレンズではAFが効かないし、Dタイプ以前の電子化されていないレンズでは露出計すら効かない。それらのレンズを使いたければD7500以上の中級機を買うしかないのである。しかも最近では絞りまでレンズ側で電子制御されるようになり、上位機種であってもそれに対応した最新機種でなければ使用不可となっている。つまり物理的に装着が可能であっても利用できる機能はどんどん制限されているわけで、古いレンズは実質的に使い物にならない。これではもはやレンズは資産とは言えないだろう。

これがマイクロフォーサーズになるともっと極端だ。マイクロフォーサーズというのはもともとデジタル専用設計だから、当初からすべてが電子化されており、マウントには機械的な連動が一切ない。AFはすべてレンズ内蔵のモーターで駆動され、絞りも完全に電子制御されているし、フォーカスリングさえ完全電子式だ。さらにPananonicのレンズでは手ぶれ補正を内蔵したものがあり、電動ズームを初めて投入したのもPanasonicである。積極的にすべてを電子化することによってデジタルカメラならではの利便性を追求しようというのがマイクロフォーサーズの根本思想であるともいえる。

確かに電子化することによってAFは高速化され、露出の精度も向上するから利便性という面では大いに貢献している。今さら不便な時代に戻ることもできないだろう。しかし意外と見落とされていることだが、電子化には一つの大きな落とし穴がある。それは故障しやすいということだ。そのことに気づかされたのがこの前LUMIX 12-32mmF3.5-5.6で経験した手ぶれ補正の故障である。購入してまだ2年しか経ってないのだが、こんなに早く壊れるとは思わなかった。手ぶれ補正なんてあの小さいレンズ内にジャイロセンサーとモーターが組み込まれた電子機器の塊なんだから、多分に壊れやすい要素があるのだろう。いつか壊れるかもしれないと思うと安心して使えない。まあ手ぶれ補正が故障したところでレンズとしての機能には影響はないから、まだ被害は小さいと言える。

しかしAF機構が壊れてしまったらどうか? マイクロフォーサーズのレンズはフォーカスリングもモーターによって電子制御しているから、壊れたらMFすらできなくなる。そうなったらもはやレンズとしての機能を完全に失う。絞りも同じである。電子制御式の絞りが壊れたら露出がまったく合わなくなって万事休す。高度に電子化されたレンズは常に故障というリスクを抱えていることを忘れてはならない。

これは何もマイクロフォーサーズだけの問題ではなく、すべてのメーカーが完全電子化という方向へ向かっているからこの手の問題は避けられない。CanonはEOSが登場した当初から完全電子化に踏み切ったが、長らく機械的制御を温存してきたNikonも最近はついにフォーカスリングや絞りの電磁駆動にまで足を踏み入れた。時代遅れと言われるPentaxでさえ(笑)、ついに電磁絞りのレンズを投入してきたのだから完全電子化は時間の問題である。

電子化を進めれば進めるほど利便性が向上することは確かだ。しかしその反面、いったん故障すればすべてが終わってしまうリスクを抱えていることを忘れてはならない。たとえ光学系が健全であってもAF機構が壊れてしまえばそのレンズは死んだも同然だ。安物のレンズなら買い換えた方が安いだろうが、高価なレンズになるとそういうわけにも行かない。現行品の間は修理が可能だが、生産が終了して数年経てば電子部品の在庫がなくなって修理不能になってしまう。そうなればどんな高価なレンズも文字通りゴミに化ける。MF時代のレンズであれば壊れる部分自体が少なかったから、カビやクモリさえ気をつけていれば半永久的に使え、たとえ壊れたとしても分解すれば修理が可能であった。現代の高度に電子化されたレンズには到底そこまでの耐久性は望めない。

デジタルカメラは精密機器ではなく家電だと言われて久しいが、最近はレンズも電子部品の塊で光学機器というより家電に近くなっており、ボディーと同じくレンズも定期的に最新型に置き換える必要性が出てくる。つまりレンズも「資産」ではなく「消耗品」に成り下がったのだ。だからレンズに高い金をかけるのは無限に金がかかるのと同じであり、経済的に無駄が大きい。

とはいえ今さらMF時代に戻るわけにも行かないだろう。しかしAF時代のレンズであっても古き良き時代があったと思うのだ。それはボディー側からのAF制御と絞り制御、そして欲を言えば絞りリングの存在である。Nikonで言えばDタイプレンズがまさにそれに該当する。この時代のレンズは内部にモーターを持っておらず、基本的にはMFレンズと大差ない構造であった。当然、電子部品が壊れて修理不能になる可能性はほとんどない。自分はこれが最も理想的なAFシステムであると考えている。

手ぶれ補正についてもフィルム時代からすでに存在していたが、レンズ側に搭載する方式は故障のリスクを増やすだけだからやはり良くない。ここでもボディー内補正の優位性が明らかである。フィルム時代ならレンズシフト式しか方法がなかったが、デジタルカメラであるからこそセンサーシフト式が可能になったのであり、その利点を生かすべきである。もはやレンズシフト式のメリットは何もないと言って過言ではないだろう。最近は多くのメーカーがそれに気づき始めていて、頑なにレンズシフト式を採用していたメーカーもセンサーシフト式に移行しつつある。やはりレンズ側には余計な機能を持たせないのが故障のリスクを減らす上で理想的なのだ。

自分がPentaxを支持する理由はまさにここにある。まずセンサーシフト式の手ぶれ補正であるからレンズ側には手ぶれ補正機構を一切持たせていない。そのことにより、少なくともレンズ側の手ぶれ補正が故障するリスクはゼロである。そして今どきジーコジーコとうるさいボディー側駆動のAFシステム。これを時代遅れと揶揄する向きは多いが、自分はそうは思っていない。むしろAFの理想的な形態だと評価している。レンズ側にモーターを内蔵していないから構造がシンプルであり故障する部分が非常に少ない。絞りにしても同じことで、ボディー側からレバーによって連動させる方式は原始的ではあるが故障の可能性が少なく信頼性が高い。

Nikonも同じような方式のレンズに初期の頃は対応していたが、今ではエントリー機からは省略され、中級機以上でないと旧タイプのレンズは使用できない。Pentaxの素晴らしいところは、エントリー機であっても差別することなくボディー側駆動のレンズが使えるところにある。最近ではPentaxでもレンズ内モーターに移行しつつあるが、Limitedレンズをはじめとしてボディー側駆動のレンズは多く生き残っている。今後発売されるレンズは完全電子化へ向かうのかもしれないが、Pentaxの置かれている現状を考えるとすべてのレンズが電子化される可能性は低いと思われる。おそらくそれよりPentaxが潰れる方が先だろう(爆)。

同じ理由でマイクロフォーサーズではPanasonicよりもOlympusを支持する。少なくともレンズ側で手ぶれ補正が故障するリスクはゼロだからだ。手ぶれ補正が故障してもなかなか気づきにくいことを経験済みである。だから厄介なんだ。特に中古を買うなんてなおさらだ。

もう一度言うが、レンズには余計な機能を持たせない方が良い。シンプルであればあるほど寿命は長くなるからだ。懐古趣味と思われるかもしれないが、ボディー内駆動のAF、機械式の絞り連動、手動式のフォーカスリング、絞りリングの存在、そしてボディー内手ぶれ補正が最も信頼性の高いシステムであり、レンズの理想形だと考える。

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