シャープネスに騙されるな

スポンサーリンク

先日の記事で、K-30が吐き出すJPEGの絵は明らかにLightroomより精細感が劣っているのに、解像感評価ソフトで解析された解像度はほぼ同じなのはなぜか?ということを書いた。今回はこの謎についてもう少し掘り下げてみたい。

Lightroom現像とカメラ内現像を等倍で比較すると明らかに精細感の違いがある。極端な例として、カメラ内現像でファインシャープネス+1をかけた場合と比較してみよう。

lightroom_sharp
Lightroomでシャープネス45(クリックで等倍表示)

k30_finesharp_p1
K-30カメラ内現像でファインシャープネス+1(クリックで等倍表示)

どっちが精細感があるかというと、誰が見てもLightroomの方だろう。カメラ内現像の絵は単に線が太くなっただけで、決して細かい部分まで解像しているわけじゃない。ただガサガサで汚いだけの絵。ここまで来るともはや「写真」ではなく「塗り絵」だ。オリンパスの悪口など言えたもんじゃない。

それでは解像感評価ソフトを使って解像度を比較してみよう。解析に使った画像はこの前と同じだ。まずLightroomで現像した場合の結果をもう一度示しておく。

画像解像度:2590 LW/PH
ナイキスト周波数に対する割合:79.35%
実効画素数:10.13 Mpixels

次に同じ画像をK-30でカメラ内現像した場合について結果を示す。シャープネスの設定を6通りに変えて試してみた。

ノーマルシャープネス+1
画像解像度:2748 LW/PH
ナイキスト周波数に対する割合:84.19%
実効画素数:11.40 Mpixels

ノーマルシャープネス0
画像解像度:2586 LW/PH
ナイキスト周波数に対する割合:79.23%
実効画素数:10.10 Mpixels

ノーマルシャープネス-1
画像解像度:2352 LW/PH
ナイキスト周波数に対する割合:72.06%
実効画素数:8.35 Mpixels

ファインシャープネス+1
画像解像度:3186 LW/PH
ナイキスト周波数に対する割合:97.61%
実効画素数:15.33 Mpixels

ファインシャープネス0
画像解像度:3106 LW/PH
ナイキスト周波数に対する割合:95.16%
実効画素数:14.57 Mpixels

ファインシャープネス-1
画像解像度:2972 LW/PH
ナイキスト周波数に対する割合:91.05%
実効画素数:13.34 Mpixels

何とファインシャープネス+1ではあり得ないような数値が出ている。ベイヤー式センサーは実質的な解像度が画素数の1/3程度しかないため、実効画素数が総画素数とほぼイコールになることなどあり得ない。その他のケースでもほとんどLightroomより高い数値が出ている。明らかに異常な結果だ。つまり、解析によって得られる解像度の数値はシャープネスの設定によっていくらでも変わるため、現像条件をまったく同一にしないと比較する意味がないということだ。したがって、異なるカメラが吐き出すJPEG画像を直接比較しても意味はないだろう。やるならRAWで撮影して、同じソフトを使って同じように現像するしかない。

ここで間違っちゃいけないのは、シャープネスを強くかけても本当に解像度が上がったわけではないということだ。もともとソースは同じなのだから、いくらシャープネスをかけようが物理的に解像していないものが解像するわけがないのだ。それは当たり前の話。単に人間の目が騙されているだけに過ぎない。シャープネスで無理やり解像感を上げているのは「本物の高解像」ではなく「インチキ高解像」と言わなければならないのだ。

ちなみにLightroomとファインシャープネス+1のヒストグラムがどうなっているか比較してみよう。

hist_lightroom_sharp45
Lightroomで現像

hist_k30_finesharp_p1
K-30のファインシャープネス+1

するとやっぱりファインシャープネスの方が高周波成分をたくさん含んでいるのがわかる。エッジを強調するほど高周波成分が多くなるから当然の結果だ。人間の目は高周波成分が多いほど解像感が高いと認識するが、困ったことにソフトも騙されちゃう。シャープネスを強くかけた画像はどうしても高い解像度をはじき出してしまうのだ。残念ながらこのヒストグラムだけを比較して「本物の高解像」と「インチキ高解像」を見分ける術を知らない。もはやこれまでか・・。ギブアップ!

どのメーカーのカメラにも言えることだが、カメラが吐き出すJPEGの絵は線が太い。ペンタックスとて例外じゃない。なぜそうなるのかを邪推してみると、結局カメラ内の現像処理は瞬時に行われる必要があるため、PCほど高度な現像アルゴリズムを実装できないということではないだろうか? そのためどうしても解像感が悪くなり、それを補うためにシャープネスをガチガチにかけて人間の目を欺くのだろう。その典型なのがコンデジだ。コンデジの絵はノイズリダクションで解像感が落ちたのをごまかすために滅茶苦茶なシャープネスをかけているから、見るからに安っぽい絵が出てくる。ニコンの一眼レフの絵は眠いとよく言われるが、コンデジみたいな安っぽい絵と思われたくないからあえてシャープネスをかけないという説もある。シャープネスをかけても解像度が上がるわけではなく、何の御利益もない。だから必要以上にシャープネスのかかったカメラJPEGの絵なんて使いたくもない。自分が知る限り、一番精細感あふれる絵を吐き出すのはLightroomであり、それ以外の選択なんて考えられない。

コメント

  1. BigDaddy より:

    ちょっと質問です。Pentaxの場合、以前からファイン、エクストラは単なるステロイド、筋肉増強剤と揶揄されているので、気にしませんし(笑)、プリントするとファインシャープネスが具合が良いので、今では常にファインシャープを使っていますが、FujiやOlympusの小絞りボケを修正する機能がカメラ側にあり、これはRAWに作用しているのでなく、ソフト的にJPGでシャープを強くしている訳ですよね?。つまり、これもステロイドと思って良いのでしょうか?。

    実はこのFujiとOlympusの小絞りボケ修正機能って、最初はRAWに作用するものだとばかり思っていたので、スゲエ技術だなぁと思っていたんですが、仕様を見るとJPGのみ。じゃぁ、単なるシャープネスの一種?、と首を捻っちゃう訳です。

    それだと例えばDxOのOptics Proには小絞りボケ修正と言う名ではありませんが、レンズのプロファイルによって中心部よりも周辺部にシャープを掛けるような機能もあり(結果的に小絞りボケでも十分にシャープに見えるようになる)、小絞りボケはソフトウェアのシャープネスで対応出来るんじゃないのか?、と考えているんです。

  2. 型落ちハンター より:

    FujiのHPにもRAWには作用しないとハッキリ書いてありましたね。
    HDRの場合もそうですが、センサーが取り込んだ画像に対して何らかの処理をしようとすれば必ず現像しなければならないわけで、RAWには作用しないんですね・・
    たとえばハイライト補正はISOを上げることによってセンサーに取り込まれる以前に処理しますからRAWにも作用しますが、それ以外のシャドウ補正、歪曲補正、倍率色収差補正なんてのは全部RAWには作用しないでしょう?

    間違ったことを言うと恥ずかしいので(笑)、Fujiの点像復元技術について調べてみました。するとこれは普通のシャープネスとは根本的に異なる処理なんですね・・

    小絞りボケというのは光の回折によって起こる物理現象ですが、各レンズごとに「この絞りだと点像がこのくらいぼやける(拡散する)」というデータを取ることは可能なわけです。非常に端折って言いますと、この技術の肝は、あらかじめ測定して得られた回折データをレンズごとに持たせておき、そのデータを使って撮影画像から逆算して元の画像を復元(推定)することなんですね。完全な回折データさえあれば、少なくとも理論的には元に戻すことが可能です。ですから単にエッジを強調するだけのシャープネスとは根本的に異なります。結果的にシャープネスと似たようなものになっても、ノイズが増幅されるなどの弊害は少ないと思います。

    もちろんこの技術を使っても、レンズの解像度が元より良くなるなんてことはあり得ません。あくまでも絞り込んだときに開放に近いところまで解像度を回復させられるだけに過ぎません。しかし被写界深度と解像力を両立させられるわけですから、それはそれで意味があるわけです。

    市販ソフトの小絞りボケ補正ってのはどういう原理なんでしょうね? もちろんソフトでもやろうと思えばできますが、Fujiの方式でやるならばすべてのレンズの回折データを持っていなければできないわけですから、そこまではやってないはずですね。たぶん絞りの値によってシャープネスの強さを変えているだけのことでしょう。

    ちなみにOlympusはFujiとは違う方式でやっています。公表はしていないですが、レンズのMTFデータを参照する方式と言われています。カタログの文言などから類推するに、おそらく絞りごとのMTFデータを参照してコントラストが下がった分をシャープネスで持ち上げているだけ?と思います。

  3. BigDaddy より:

    なるほど、ただの輪郭矯正じゃないんですね。

    となると、仕様は異なっているでしょうが、目指している部分はやっぱりDxO Opticsと類似しているのでしょうね。DxOの場合、自社(つまりDxO Markのテスト)で市販レンズの大半を厳密にテストしており、しっかりとしたレンズプロファイルを持っているみたいです。

    小絞りボケよりも、像面湾曲に力を入れているようで、中心部と周辺部のシャープをなるべく均一にするような仕様から発展した、そしてその効果を強くすると、小絞りボケにもある程度対応出来るっぽいですねぇ。やはりアンシャープマスクよりもノイズが出ず、高感度写真にも結構使えたりします。

    ただ、見た目は、Lightroomのブラシや円形フィルタを使って、部分的にシャープネスを加えたのと変わらないんですよねぇ(笑)。FujiもOlympusの点像復元も含めて、プリントしてどこまで違いが出るかでしょうかね。

    面倒な質問に答えて下さりありがとうございました。

  4. 型落ちハンター より:

    >BigDaddyさん

    いや~、自分もただ単に絞り値に応じてシャープネスを変えてるだけだろ?と思ってたんですよ。(笑)
    回折のデータが既知であれば、そこから逆算することができるとは目から鱗でした。
    たぶん像面湾曲も同じ方法でできるんでは?と思います。

    でも見た目にはやっぱりシャープネスと区別は付かないでしょうね・・(笑)